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錫丈岳北尾根第3稜        1997.2.7〜2.10 三瓶 修

2.7大阪-(きたぐに)-富山

2.8 晴れ
  富山-猪谷-奥飛騨温泉口-中尾高原口(9:00)-クリヤ谷-錫丈沢出合(12:30)-夏 道左 co,1750   C1 (14:30)-偵察(15:15引き返し)-C1(15:40)

 中尾高原口から露天風呂の上の橋を渡り、笠ヶ岳への夏道に入る。トレースはない。最初からオーバーズボンにわかんをはいて歩き始める。移動性の高気圧が日本を大きく覆っている。とりあえず天気がいいのは歓迎だが暑すぎる。わかんがあっと言う間に鉄桁のように重たくなっていく。夏なら1時間半位でつく錫丈沢がやたらと遠い。夏道には沢山のデポ旗がうってあって分かりやすいが、そのデポ旗までがなかなか届かない。

 ようやく徒渉点までたどり着くと傾斜は緩くなりラッセルもある程度楽になってくる。この辺りから錫丈の岩場が見えてくる。まず見えてくるのは三本槍尾根である。三本歯とも呼ばれる岩峰は、この辺りから見ると顕著に見える。この尾根も冬に下から登れば面白そうだ。
12時過になって何とか錫丈沢にたどり着き、ラッセルにうんざりしてのんびり岩場を見上げていると1ルンゼが大きく雪崩れた。あわててカメラを出してシャッターを切る。この異常な暑さでは仕方がない。
雪煙は以外にゆっくりと落ちていくように見える。対岸にいて一応安全が確保されているので、今落ちた雪崩がどこまで流れてくるのか気になってしばらく様子を見ていたが、錫丈沢にも下の樹林帯にもデブリは落ちて来なかった。

 壁の中の雪崩は実際に流れた雪の量よりはるかに派手に見えるようだが、いずれにしろあんなのに当たった日には、結果は一緒である。だいぶ長いことそこにいると、後ろから2人Partyが上がって来た。中央壁に登るという。ラッセルありがとうございました、というさわやかな声に見送られ、再び一人黙々とラッセルを続ける。
地図で見ると分かりにくそうな地形だが、中に入ると思ったより沢型がはっきりしていて、現在地は大体分かる。夏道の看板も所々拾える。右から顕著な沢が入り沢の向きが左へ大きく変わるところから北西に切って直接第3稜の末端を目指す。

 1、2、3稜の頭が大きなぶなの林の上に確認できる。が、思った以上に時間を食ってしまい今日中に偵察を済ますのは難しそうだ。上からの雪崩も気になるので、夏道のわきの co.1750 付近にツエルトを張ることとする。ザックをおいて空身で上部の偵察に向かう。第2稜は黒い岩に雪がたっぷりと乗っていて美しい。2稜と3稜の間は地図で見るとおり雪面が上まで抜けている。今日のような天気では雪崩がこわくてとても近寄る気になれない。今回目指す3稜は2稜側は脆そうな茶色の岩がほぼ垂直からカブり気味に立ち上がっている。ここを登ろうとすれば本気でザイルを出さなければならず、今の私の力でやるのは無理である。しかし稜の末端は壁とはなっておらず、幾つかの岩稜に別れており、その間は雪のルンゼとなっている。ここは上に抜けられそうである。外にも幾つかルートは取れそうだが、今回は1番無難そうなルートを選ぶことにして天場に戻る。

2.9 晴れ C1(6:00)-取り付き(7:00)-3稜上コル(11:30~12:00)-C1=C2(13:00)
 昨日つけたトレースをたどり3稜末端へ。昨日見たとおり右側の傾斜の緩いルンゼから取り付く。ここでeisenにはきかえ、ハーネスをつける。出だしは5mほどの氷から胸のつかえるようなラッセルの急な雪面である。ここで荷物が重いので1p seilを出す。雪面の状態が氷からバリズボまで大きく変わり、時にはBushを踏み抜いて胸まで埋まるというような感じで、1度空身でトレースをつけないと荷物に振られてバランスを崩しそうだ。まだ日が直接当たっていないので昨日のように団子にはならないが、雪は全く落ち着いておらず、強烈なラッセルだ。なんとなく感じは後立の尾根に似ている。東側に位置していることと、標高が低い分、水分の多い雪のせいかも知れない。

 小さなデブリのある急な雪面を登りきり、露岩を左に避けて、再び急な雪面のラッセルを続ける。ようやく右側に落ちる小さな支稜上に上がる。そのまま稜をたどるが、正面を岩に押さえられ、ハーケンを打たなければ突破できそうもないので、いったん戻り右側のルンゼに入る。倒木をくぐり上に抜けようとするが、小さな段差の下が落とし穴になっていて、荷物がなければモンキークライムで抜けられるが、この荷物ではちょっと苦しい。

 仕方がないので再び戻りseilを出すことにする。段差を越えると凍った草付きが5mほど続き、そこから急にずぼずぼの雪面へと変わり、Bushを掘り起こしてのモンキークライムとなる。さらに雪面を登って大きなタンネでビレーを取る。ユマールで登りかえすも、さっきつけたトレースが、荷物のせいで全部崩れてしまい消耗する。支点にしたタンネからさらに雪面を登ると地図上の小さなポコの下に出た。ここまで取り付きから3時間以上かかった。
 
 もうルートは稜線まで見渡すことができる。後はラッセルのみである。たばこを吸って一休みする。ラッセルで体はびしょ濡れである。気温もだいぶ上がって来ている。雷鳥岩の下辺りには小さなデブリが見える。いつまで休んでいても先には進めないので、目の前のポコを越えるべくラッセルを始める。がこの小さなポコがなかなか越えられない。雪が腐ってきて下のBushまで全部踏み抜いてしまう。ようやくこれを越えてみればもう12時をまわっていた。1時間以上もかかってしまった。ほとんど高度は稼いでいない。

 もう雪がずぼずぼで全くペースが上がらない。ポコの先は大きなタンネが生えていて、ここで泊まることもできたのだが、この荷物と雪の状態では明日も埒が明かないので、このまま沢にescapeして昨日の天場に戻ることにする。このポコを越えてしまえばどこからでも沢に下ることができる。というよりむしろ、尾根をたどって行くほうが難しい。ほとんど沢の中に吸収されてしまう感じだ。が、2稜の様子を見たいので明日はもう1度ここから登って笠ヶ岳を目指すことにする。

2.10 晴れ C2(6:30)-稜線(9:00~9:30)-C2(10:15~10:30)-中尾高原口(12:30)
 昨夜は晴れていたせいか以外と冷えて、疲れていた割りにはあまり眠れなかった。体が濡れていたせいかも知れない。起き出してお茶を作り始めるが、どうにも体がだるい。軽い風邪を引いたようだ。お茶を飲みながらどうするべきか迷っていたが、3稜だけでもトレースしておこうと出発の準備をする。日本を覆い続けた高気圧も明日はどうやら通り過ぎる様子で、天気も悪くなりそうだ。
 ザックに多少の登攀具とseilを入れて、昨日のトレースをたどる。昨日の下降点から再び尾根上に上がり相変わらずのラッセルの中、稜をたどる。Bushがらみの小さなポコを越えるのが鬱陶しい。やがて右手に大きく2稜が上がってくる。2稜は3稜よりも細く、雪をまとってなかなか美しい。下から見えていた岩から、細い雪稜が続きそのうえにもう1つ岩峰を抱えている。なかなか登りごたえがありそうだ。
 
 2稜と3稜の間は雪面が上がって来ているが、小さなデブリの跡がある。何枚か写真を取る。笠ヶ岳の方に目を移すと、抜戸岳南尾根がきれいに見えている。核心の岩峰が黒々と映えている。3稜の方はただただラッセルが続きやがて稜線に出た。錫丈岳がはるか下に見える。とてもここからattackするような気にはなれない。一方笠ヶ岳ははるかに遠くに見える。今回は体調ももう1つなのでここまでとする。

 下りは沢沿いに取る。まだ日が高くないせいか、昨日と違って風があるせいかまだ雪は腐ってこない。わかんで滑るように下り、あっと言う間に取り付きまで戻って来た。 天場について荷物を回収し、温泉を目指して下山する。錫丈の岩小屋まで戻ってくると、初日に会ったPartyがくつろいでいた。壁のほうは雪が多く状態が悪く、変なルンゼを夜のうちに登ったと言っていた。やはりこういう天気の場合、そういう登り方をしていかないとなかなかチャンスはないだろう。今回も笠ヶ岳には登り損ねてしまったが、まあ相手は逃げないし、2稜の様子も分かったし、抜戸岳の南尾根も観察できたので収穫有りとしたい。錫丈岳周辺についてはピークが樹林体でもう1つではあるがアプローチも短いしあまり多く人が入る山でもないので、大勢で来て、それぞれにあったルートを登れば楽しめるだろう。三本槍尾根、北尾根2稜などは中堅のPartyの力試しにちょうど良さそうに思えた。




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