剱岳 大脱走ルンゼ スキー滑降
- 山行日
- 山域、ルート
- 剱岳 えびルンゼ ~ 大脱走ルンゼ
- 活動内容
- 山スキー、バックカントリー
- メンバー
- M、友人
剱岳とバックカントリー
剱岳は北アルプスの2999mの山である。「北アルプス北部の盟主」、「岩と雪の殿堂」と謳われるにふさわしく、堂々たる岩峰に鎧われた山である。「日本百名山」では剱岳を、激しく険しい岩ぶすまと急峻な雪谷に守られた豪宕 (ごうとう)、峻烈 (しゅんれつ)、高邁 (こうまい) の風格を持つ北アルプス北部の俊英としている。
私が初めて剱岳を間近で見たのは、5月に山スキーで立山を訪れた時だった。室堂から歩いて雷鳥沢を登って剱御前小舎に着いた時、突如現れた剱岳の山容に衝撃を受けた。真砂岳や別山のように、室堂から望む景色には、大部分が白く雪に覆われた優美な山が多い。しかし、剣御前小舎から望む剱岳は、周囲の山が白く雪に覆われているにも関わらず、黒々とした峻厳な岩稜を露出させそこだけが別世界のように見えた。「岩と雪の殿堂」の名の通り積雪量も豊富で、室堂を利用したアクセスの良さもあり、古くから山スキー、バックカントリーが盛んな山域でもある。
大脱走ルンゼ
大脱走ルンゼ (ダイレクトルンゼ) は、平蔵谷から源頭の剱岳山頂に向けて南面をダイレクトに突き上げるルンゼである。剱岳地名大辞典 (立山カルデラ研究紀要第13号, 佐伯邦夫) によれば、17名のパーティがザイルに繋がったまま大脱走ルンゼを下降中に滑落したものの全員無事で、図らずも剱岳から「大脱走」に成功したことがその名前の由来となっている。剱岳南面をダイレクトに落ちる急峻なルンゼが大脱走ルンゼであり、剣御前小舎や剣沢から望むことができる。大脱走ルンゼは1999年の初滑降以来、下降路ではなくスキー滑降ラインとして語られることがほとんどである。北アルプス北部の盟主である剱岳山頂からダイレクトに滑降できる非常に魅力的なラインと言える。
剱岳 大脱走ルンゼ スキー滑降 山行記録
この日は2度目になる剱岳山頂からの大脱走ルンゼ滑降。
前日の4月29日に室堂へ入山。この日は悪天候だったので、山崎カールの下部を1本滑り早々にみくりが池温泉にチェックインしてのんびり過ごした。
前回の2011年5月の大脱走ルンゼ滑降時は剣御前小屋出発だったが、今回はみくりが池温泉出発。みくりは温泉とおいしい食事がうれしい。とはいうものの、早朝にみくりを出発し、剱岳山頂から滑降、みくりでデポした荷物を回収して室堂ターミナルに戻り、翌日から海外出張のためその日のうちに高原バスで下山する必要がある。剱岳山頂からドロップするタイムリミットを11:00とした。
翌4月30日、3:15起床、夜明け前の4:15みくりが池温泉出発。まずは剣御前小屋を目指し雷鳥沢を登行。剣御前小屋に到着すると、予報通り風は強めで剱岳の稜線には雪煙が上がっており、行けるか微妙なところ。
とりあえず行けそうなところまで行こうということで、準備をしてカリカリの剱沢を平蔵谷出会いまで滑走。剱沢小屋付近にはデブリ跡があった。
平蔵谷出会いでアイゼンに履き替え、シールと余分な行動食、水をデポして登行開始。先行の4人の登山パーティのトレースを使わせてもらい高度を上げる。数日前の新雪が残っており、先行パーティによるラッセルはありがたかった。
残雪期に平蔵谷から剱岳山頂にアクセスするルートとして、えびルンゼとインディアンクーロワールの2つが候補になる。前回はえびルンゼを使った。風が強めのこの日も、稜線での行動時間がなるべく少なくなるえびルンゼを使うことにした。
途中から先行パーティに追いつき6人でラッセルを交代しながらさらに高度を上げた。えびルンゼという名前は、この日に先行パーティから教わった。カニの横ばいの隣にあるからえびルンゼと呼ばれているらしい。前回の登行時は名前などないと思っていた。
平蔵谷の標高2700-2800mで右手に見える岩壁左端のルンゼがえびルンゼである。岩壁を右手に見ながら登っていくと見えてくる。えびルンゼに入ると、傾斜がきつくなり膝ラッセルに。ラッセルをまわしながらさらに高度を上げる。ルンゼは左にカーブしており雪渓をつなぐように登っていく。
雪渓を登りきると夏道に合流し、さらに傾斜のある岩稜帯を登っていく。岩稜帯を抜けると視界がひらけ稜線が見えてくる。徐々に風が強くなってきたものの、十分行動できる強さだったのでそのまま登りきり剱岳山頂に到着した。この最後の登りがしんどく感じる。
剱岳山頂到着は10:30、ラッセルで意外と時間がかかったが、先行パーティーがいなかったらさらに時間がかかっただろう。何とかタイムリミットの11:00にドロップできそうだ。景色を堪能した後、滑走準備を整えドロップ。
山頂から左の源次郎尾根に寄り気味に滑って高度を落としてから、大脱走ルンゼに進入する。気温が上がりデロデロ流れる雪で滑りにくい。雪崩跡を慎重に滑降した。縦溝で狭くなっているルンゼのノド部を抜けると平蔵谷に合流する。合流後はデブリだらけの平蔵谷を剱沢出合まで滑降。
剱沢出合でデポした荷物を回収し、剣御前小屋まで剱沢の登り返し。剣御前小屋かはら雷鳥沢を滑降し、みくり経由で室堂ターミナルに帰着、無事その日のうちに下山した。