西穂高岳 西尾根 積雪期 バリエーションルート

山行日
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山域、ルート
西穂高岳 西尾根
活動内容
積雪期バリエーションルート登山
天気
快晴
メンバー
W、U本(記)

西穂高岳 西尾根 積雪期 バリエーションルート 山行記録

以前から気になっていた西穂高岳西尾根へWさんと行ってきました。
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樹林帯と岩稜帯で構成されるこの西穂高岳西尾根は北アルプスの槍、穂高というメジャーな山域にあるものの比較的入山者も少なく、総合的な冬山の楽しみを十分味わわせてくれる積雪期バリエーションルートであり、いずれは登ってみたいと考えていた。

前半は樹林帯を伸びる急登の尾根道で積雪状況によってはラッセルを覚悟する必要があり、後半は森林限界を抜けた急斜面の雪稜登攀と山頂まで続く雪と岩稜のミックス地帯の登高というのが本ルートの特徴である。

20㎏前後のザックを背負って積雪状況によっては深雪をラッセルしながら登る体力、雪崩のリスク判断、滑落したらほぼ間違いなく死ぬであろう危険個所が多数あり、わずかなミスでも命取りとなることから雪稜や岩稜での的確なピッケル、アイゼンでの登高技術、ロープワークに加え、入山者が少ないルートということもあり積雪状態に応じた正確なルートファインディングも必要とされる。

計画の初期段階からWさんと何度も打ち合わせを重ねながら、実際に起きうるであろう様々な事態をシミュレーションし、必要な装備、日数、食料などを割り出して詳細を詰めていった。地形図による詳細なルート調査とお互いの力量を検討した結果、一応1泊2日でいけるのではないかとの見通しは立てていたが、雪が予想以上に多くラッセルに時間をとられる場合もあると考え、予備日1日分余裕をみて食料は2泊3日分を持ち上げることとした。また、稜線を吹き抜ける強風でコールがお互い聞き取れないことも考えられたため、アマチュア無線機を各自携行することとした。実際は最後までロープを出さずに行けたため、無線機でコールする場面はなかったが、わずか160gと軽量コンパクトであり、スマートフォンと違い分厚い手袋をしたままでも容易に操作できるという手軽さで行動中の意思疎通にとても役立った。無線機は今後も積極的に活用したいと考える。

荷物は極力軽量化していく方針であったが、八ケ岳阿弥陀南稜で7人が同時滑落、そのうちの3人が死亡する遭難事故が本山行の数日前に発生した。山では何が起きるかわからないということも考え、50mシングルロープ1本、アイススクリュー数本、またスノーバーも持っていくこととした。

雪山での通常の幕営装備に加えて、ダブルシャフトで登攀の安全性を高める目的で各自ピッケル2本(アッズとハンマー各1本)を携行、ラッセルがある可能性もあったのでワカン、雪崩の危険個所があるためビーコン、ゾンデ、スコップを携行したことでザックの重さは最終的に23㎏に達した。

せめて食料だけでも軽くしたいということで今回は山岳会伝統の鍋料理でなく、アルファ米などの携行食料を中心とした簡素なものとした。さらにこの時期は雪が氷化し、滑落のリスクが高くなっていることが考えられたため、ピンピンになるまでアイゼンの全ての爪を研ぎ直す等、細部に至るまで事前準備をおこなった。

本山行の数日前の出張で北アルプス上空を飛ぶ機会に恵まれた。槍、穂高上空を抜けるコースをうまく取ってくれればと、また雲が少なく視界が遠くまできいてくれればとひそかに期待していたところ、穂高連峰の上を狙いすましたかのように飛んでくれ、西穂高岳を上空から事前偵察することができた。3月も末にもかかわらず、穂高連峰は真っ白な雪に覆われた荘厳な雪山の装いで、来たる山行への期待が高まる。
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午前3時半過ぎに新穂高駐車場へ到着し、車中でそのまま仮眠する。5時過ぎに目覚め、かるく朝食をとり装備を整えて6時過ぎに出発する。前日までの激務の疲れに加えて極度の寝不足で頭はぼーっとし、体は死んだように重く、調子が上がらない。
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新穂高登山指導センターに登山届を提出し、ロープウェイの新穂高温泉駅の下を素通りして右俣林道へ入っていく。車止めのゲートから先はがっつり雪が積もっていた。ツボ足で林道をトボトボ歩く。モナカ雪を踏み抜いては膝や腿まで埋まり、歩きづらい。
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穂高平避難小屋についたあたりから身体がようやく目覚めてきたか、頭が少ししゃきっとしてくる。後ろから40代男性2人のパーティが追いついてくる。西尾根に入ったのは我々と彼らの2パーティ、計4名だけであった。
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西尾根の取り付きはどこからでも良いということになっている。穂高平避難小屋の前でワカンを履き、牧場跡の柵を乗り越え、ただっぴろい雪原を突っ切って西尾根の末端にとりつく。
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表面はパリッと、中はふんわりサラサラしたモナカ雪が積もった急斜面が尾根のすそ野から始まる。モナカ雪を踏み抜いて膝や腿まで埋まってはもがき、ザックの重みが肩からのしかかり、一向に捗らない。ふと気づくと熊の足跡が目の前を点々と横切っている。こめかみから汗を滴らせながら、熊も冬眠から目覚めてこんな深い雪の中を歩きまわって大変だな、などとぼんやりした頭で思った。
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雪が締まっていて少しでも歩きやすいところを探しつつ、広い尾根を右上へとトラバースしながら登っていくと、少しずつ雪が締まってき、能率が上がってくる。
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適当な頃合いでアイゼンに履き替え、肩に食い込むザックの重さにあえぎながら雪の急斜面を尾根筋に忠実に登っていく。心地よいほどに静かなブナの原生林を抜けていく。見上げれば穂高ブルーに染まった雲一つない青空がどこまでも続く。真っ白に雪化粧した錫杖岳、笠ケ岳、抜戸岳を背負いながら着実に高度を上げていく。
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1946mピークで一息入れる。見渡せばテントを十数張りは張れそうな平地が広がっている。しかし我々が目指すのは2350~2400m付近の幕営適地。こんなところで落ち着いてしまうわけにはいかない。ずっと先まで樹林帯が続いているのが見える。
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1946mピークの奥のなだらかなコルを抜けると西尾根主稜上へ出る。アップダウンを繰り返しながら細く痩せてきた尾根沿いの急登が果てしなく続く。モミの木の間から白銀の西穂高岳のピークが見え隠れしながら少しずつ近づいてくる。
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15時頃ようやく2343mのコルにたどりつく。先行していた40代男性2人のパーティがテントを設営しているところだった。重いザックを投げ出し、どこにテントを設営するかWさんと頭を突き合わせて相談する。地形図を改めて確認すると30分ほど進んだ先の第1岩峰手前の2400mのコルにテントを張れそうな地形がある。2343mのコルにザックを置いたまま空身で偵察に向かう。23㎏のザックがないとこんなに身体が軽いのか、このまま空へ風船のように舞い上がっていけるかのような錯覚におそわれる。先ほどまでの亀のような重い足取りが嘘のように空身で尾根筋を駆け上がると予想どおり2400mのコルに2人用テントを1~2張りだけ張れる狭いスペースがあり、目の前に第1岩峰がそびえている。お互い迷うことなくここにテントを張ることにした。
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2人用テントを張り、その近くにトイレを掘り、テントの脇に風よけのブロックを積み上げる。膝を突き合わせて温かい紅茶を回し飲みし、ウィスキーを舐めながらせっせと水を作る。アルファ米にレトルトカレーをかけ、ボイルしたシャウエッセンをほおばりながらカレーライスを掻き込む。シャウエッセンをボイルしたお湯で溶いたクラムチャウダースープを流し込む。アルファ米に入れるお湯の量を間違えておかゆカレーになってしまったが、お腹に入れてしまえば同じだ。満腹になった後はウィスキーを舐めながらよもやま話をしているとだんだん瞼が重くなってき、早々に寝袋に潜り込む。テントの中は暖かく快適で、朝まで夢一つみず爆睡だった。

4時過ぎに目覚め、アルファ米の牛飯とコーンスープの簡単な朝ご飯をすませ、テントを撤収して6時過ぎ出発。見上げると今日も雲一つない青空がどこまでも広がり、風もほとんどない。今日もまた良い一日になるのではと期待が高まる。

ここから先は昨日までの樹林帯の尾根歩きから一転、岩と雪の荒々しい岩稜へと様相が変わる。威圧的なほどに第1岩峰が目の前に高々と聳える。過去の山行記録によると第1岩峰を右へ巻いたり、左へ巻いたり、雪がついているときは第1岩峰を直登した事例もあるようだ。今回は第1岩峰下部にはほとんど雪がついておらず、所々氷柱が垂れ下がっている。
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我々は前もって打ち合わせたとおり第1岩峰を右へ巻き、岩峰基部近くの急斜面の雪渓を直登する。所々岩が出ているが、ほとんどが雪壁。雪はよく締まっており、アイゼンが良く効く。ロープは不要。
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雪の急斜面を登り切ると、ジャンクションピークへ向かって延々トラバース。所々前爪で登る箇所があり、ふくらはぎに堪える。もたもたしていると疲れるので駆け上がるように進む。ちょっと止まっては息を整え、足を休める。前をみると雪庇が張り出しており、下をみればどこまでも続く急な斜面。雪の下にハイマツと岩がうっすら見えるところを慎重に進む。
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ようやく北西尾根との合流地点、ジャンクションピーク。見るからに頼りなげな細い痩せ尾根の上に北西尾根からのトレースが残っている。去年のGWにTさんとI瀬さんがここから登ってきたのだなと、自分たちが登ってきた西尾根と同じく長大な北西尾根を見下ろしながらそんなことを考える。ジャンクションピークの上に小さなコルがあり、テント跡が残っていた。1~2張り分のスペースしかないので早い者勝ちだが、北は双六岳、弓折岳、槍ヶ岳、中岳、南岳が横一列に広がり、南には焼岳、乗鞍岳、御岳山、西には錫杖岳、笠ケ岳、抜戸岳、東には西穂高岳のピーク、ロバの耳、ジャンダルム、その奥に奥穂高岳が畏怖堂々と屹立している。次に来るときは早い時間にここまで上がってテン泊し、絶景を愛でながらゆっくりお酒を飲みたいものだと思った。
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ジャンクションピークの隣に2837mピークがそそり立つ。右側を巻いて雪稜を進むと第2岩峰が視界に入ってくる。これも岩尾根を右に巻いて岩稜右側の浅いルンゼを直登する。この辺りは岩がボロボロで浮石も多く、気が抜けない。難しさは感じないが、失敗できないので緊張感が続く。ふくらはぎが疲れてくるのが怖い。岩にしっかり乗れる場所を見つけてレストしてはふくらはぎを休め、また登る。繰り返し出てくる小岩峰ごとに急な雪壁の登りがある。雪壁にはピッケルもアイゼンもしっかり刺さる。岩峰に雪がついているところのほうが登りやすい。雪質も柔らかいところや堅いところと様々。劣化したフィックスロープや錆びたワイヤーが所々垂れていたが、雪に埋もれているところも多かった。正しいルートを進めているというとりあえずの指針にはなる。天気に恵まれ、幸いロープを出さずにすんだ。
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山頂直下の最後の核心部の岩場に差し掛かる。古いロープが垂れていたが、大半が雪に埋まっている。丁寧に足場を確保しながら垂直に切り立ったルンゼをダブルアックスで慎重に体をせり上げる。特に難しさは感じないが、見下ろすと完全に切り立っていて高度感が半端ない。このドキドキ感がたまらない。雪崩の跡が所々に残る西穂沢の雪渓が遥か麓まで伸びている。登攀する足元から崩れ落ちた雪塊が数百メートル垂直に切れ落ちた絶壁を次々落ちていく。わずかなミスも許されない。
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ルンゼを乗り越えると西穂のピークへの最後の斜面が陽光にきらきら輝いている。そのまま一気にピークへ駆け上がる。
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西穂高岳山頂。パートナーとがっちり握手する。お互い自然に笑みがこぼれる。雲一つない穂高ブルーの青空がどこまでも冴えわたり、360度の大パノラマが広がる。絶景に圧倒される。山頂は無人で我々だけだった。撮影大会をし、景色を楽しみながら携行食をほおばり、温かい紅茶を味わう。ここから離れるのが惜しい。
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下山開始。急峻な岩稜に雪の痩せ尾根が続き、独標までは気が抜けない。ロープウェイの時間に確実に間に合うという安心感からか、絶景を十分に味わいながらアップダウンを繰り返しつつ標高を下げていく。
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ピラミッドピークから独標までの細い尾根を何人もの人が続々こちらへ登ってくる。午前中のロープウェイで上がってきた人たちだろうか。
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独標。ここまでくると大勢の登山客で賑わっていた。ここでまた少し休憩する。狭い高台に大勢の人がひしめいており、傍のグループの大声が耳に飛び込んでどうにも落ち着かない。先ほどまでいた西穂山頂の静寂が早くも懐かしい。早々に休憩を切り上げて西穂山荘めがけてさらに下る。

丸山を通過し、広くなだらかになってきた斜面を降りると西穂山荘。山荘の前に重いザックを下ろして名物の西穂ラーメンを頂く。味噌味の温かいスープが胃にしみわたる。
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西穂山荘からロープウェイ駅まではこれでもかというくらい丁寧な案内看板とデポ旗が点々と続く雪道を降りていく。1時間ほどでロープウェイ駅到着。着くとすぐにロープウェイが発車し、15分ほどで新穂高温泉駅到着。新穂高登山指導センターへ下山届を出して温泉に向かう。中崎山荘奥飛騨の湯の開放感満点の露天風呂で2日間の汗を流す。さっぱりした後、体重計に乗ってみるとWさんも私も2日間で2㎏落ちていた。あと4回通えば10㎏は落とせる計算だ。

本ルートは、第1岩峰の取付きから山頂直下の緩斜面に出るまでは険しい岩稜帯、急峻な雪稜やオープンバーンの雪壁の連続で気の抜けるところはほとんどなく、緊張感を張り詰めたなかでの持続力が求められる。また雪庇や雪の状態を判断できる氷雪スキルは勿論、アイゼン、ピッケルワーク、重装備を担ぎながら登高を続ける強靭な体力が必要である。バリエーションルートのため入山者は少ないが、滑落事故もしばしば起きており、慎重な行動と判断が求められる中上級者向けのルートであると感じた。深雪でのラッセルが多かったり、天候が不安定なときはかなり手強いルートになると思われた。今回は天候にも恵まれ、雪の状態も安定しており、ラッキーであった。
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Wさん 楽しい山行ありがとうございました。やっぱりアルパインクライミングは楽しいですね。またこれからも色々なバリエーションルートにチャレンジしましょう。

コースタイム(超アバウト)

3月30日:
午前6時過ぎ:新穂高登山指導センター → 午後3時過ぎ:2343mのコル → 午後4時過ぎ:2400メートルのコル(泊)

3月31日:
午前6時過ぎ:2400メートルのコル出発 → 昼前、西穂高岳山頂 → 午後1時半過ぎ:西穂山荘 → 午後4時、新穂高ロープウェイの新穂高温泉駅(新穂高登山指導センター)

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