冬の中央アルプス最南部 安平路山

山行日
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山域、ルート
安平路山
活動内容
冬期登山
メンバー
T(単独)

安平路山 冬期登山の山行記録

久し振りの単独冬山とあって、嫌が上にも緊張する。緊張しすぎて直前にスノーシューとワカンを必要かもしれないということで車に積み込む。安平路山にはこれで2回目の挑戦だが、アプローチが遠く、簡単な山(のはず?)には、なかなか登らせてもらえない。さて、今回の挑戦はいかに。事前に冬季の同山の記録を検索するが、積雪期の記録が全然ない。。これは一体。。。

仕事を終え、大急ぎで帰宅し、30分ほど仮眠して21時過ぎに家を出発する。単独なのでドタキャンしても誰の迷惑にもならないので、誘惑に負けそうになる。あー、一人で寒いツエルト(実際は避難小屋)に泊まらなくても、どこかもっと近くの温泉でビバークして、温泉の梯子でもしたら年相応の遊びができるだろうなあ。。などと。しかしそれでは山の男が廃ると、優雅に上げ膳据え膳の安楽な道を選ばすに、風雪が待つはずの2363ピークを目指す。眠気と闘いながら、2階の休憩を挟んでやっと中津川インターを降りる。土曜深夜だが道は空いていて、木曽川沿いを走る前の長距離トラックにいらいらしながら、酷道19号から酷道256号にとり、お次は県道8号線を目指す。何やら古い看板があり,県道8号は冬季通行止めと書いてある。こんな古い剥げた看板はあてにできないと楽観的に考え、なおも進むとやがて道は雪交じりとなり、暗闇の中ヘッドライトに照らされたのは大きな鉄の格子だった。思わず、アンジェイ・ワイダ監督の往年の名画「地下水道」を思い出す。

あの映画のラストシーンもこんな鉄格子に希望を阻まれた絶望的なラストだった。しかし私の場合、まだ転進という道が残されている。時刻は午前3時。もう頭も眼も身体も限界だ。昨日は5時起きで仕事なのでもう20時間近く運転している。ここからどこへ行けと神は宣うのか。。(大げさな。。)

取りあえず、車の中で地図を広げ恵那山か南木曽山に転進することにする。恵那山がよさそうだがここから2,3時間はかかりそうだ。しかも登山口まで道路が繋がっている保障もない。残るは南木曽だ。前にも登った簡単な山だ。(山を簡単と言うのは恐れ多いが)。もう思考力も尽きたので車の中で寝ることにする。しかし寝るためのベニヤ板を家に忘れてきたことに気が付き、まともに足を延ばしては寝られないのでテントを出して張って寝る。寒い割には疲れで熟睡できた。

さて、翌朝起きてみると何やら結構人家に近いところだった。しかし通行止めのゲートを目指して地元の人が来ることも考えにくいのでゆっくりとラーメンなどをすすりながら今後の対応を検討する。

と、このままゲートから徒歩で安平路を実直に目指すという本来の岳人的なコース案を思いつく。

グーグルマップなどを駆使し、その距離を算出すると登山口まで約25キロと出た。うーむ、計画時から10キロの3時間歩きは想定範囲内だったが25キロとなると8時間はかかる。これではほぼ一日行程で、山頂を目指すところではない。止む無く、一番無難な南木曽山に登ることにする。思い起こせば台風増水のため前回の南木曽も安平路の代替案で登ったのだった。

車を南木曽の登山口まで引き返しこちらも通行止めを恐れたが、目出度く登山口まで行けた。すでに一台、止まっている。しかしドか雪が来たら脱出にはタイヤチェーン必着となるだろう。この辺はマイナーな山なので事前の積雪通行止めの情報確認は役場などに問い合わせておくべきだったと後悔する。さて支度をして、8時に出発する。ザックの重さと疲れでふらふらになりながら木段の急登を登る。雪があるのか分からないので水を約3L入れたが、それが余計に重い。途中で今夜の酒が足りない事を思い出し、往復1時間かけて取りに戻る。(最近物忘れが激しい。しかし結果的に酒は足りた。。)

4時間かけて山頂避難小屋到着。途中看板には2時間などと書いてあるがどうも嘘くさい。エアリアマップでも3時間40分だ。雨の予報だったが、幸いまだ降っては来ない。雨さえなければ身軽なツエルト泊でもまた楽しだが、雨の中でツエルトで濡れながらの一夜は地獄だ。快適な避難小屋で、水や酒、ボンベまで置いてあるが、ボンベは空で、水関係はすべて凍っていた。しかし酒が無くなったら溶かしてでも飲むだろう。時間もあるので頂上から展望を楽しむ。なるほど、この山は中央アルプス主脈からは離れた独立峰で特に存在価値も低いかと思っていたが、廻りの山の展望が素晴らしい。御岳、乗鞍、木曽駒、空木、南駒、越百、そして今回登るはずだった安平路、末端の擂古木山まで270度位見渡せる。

これは良かった。ふと見ると水場まで歩いて30分とあるので手ぶらで(!)行ってみると確かに水場があって氷も取れる(オンザロック用)ここで手ぶらに気づき、小屋迄戻ってポリタンを持ってまた往復する。(あー無駄な動線)。しかし氷の氷柱で飲むいいちこはまた格別な美味。そうこうするうちに日が暮れだしたのでランタンを付け、小屋内でツエルトを張り(これ大事)今夜の鍋を作って一人忘年会と洒落込む。ラジオと酒があると全く寂しくないのは不思議だ。逆にNHK教育を効きながら英会話の学習や文化講演会、私の仕事学拝聴など、これ以上ためになることは下界ではなかなか出来ない。荷物を軽くするために必死で飲み、食うが、やがて眠たくなったので寝ることにする。

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天気予報では夜中に低気圧通過と言ってるが一向に雨の気配はない。。。

翌日、急ぐ必要もないので朝7時起床。小屋の外へ用足しに出てみると辺り一面の銀世界だ。一晩で良く積もったものだ。雨の音がしないのは当然だった。。(唖然)帰りのタイヤチェーンが気になる。

ラーメンをすすって荷物を片づけ、小屋を綺麗にしてから出発する。一度来ている山なのでホワイトアウトでも何とか下りれるという安心感はある。天気は晴れに移行しそうだ。下りも急斜面につけられた木梯子と鎖に助けられながら、頑張って降りる。この辺りは木曽なので木材も豊富にあり、かつ山道に整備された木道の丈夫さは六甲山系などでは見られないものだ。金属を全く使用せずすべて木材加工で据えられているのに感動を覚え、かつ地元の方々に感謝しながら下りる。また4時間ほどかけて登山口まで下りてみると、心配したほど雪は積もっていないので一安心する。あとはこの山旅のメインである木曽の情緒ある温泉に入ることにし、途中で「あららぎ温泉」の看板を見つけ風情がありそうなので入ってみるとこれがやや狭いが源泉かけ流しの檜風呂で、強烈な濃いアルカリ泉に思わず唸りながら貸し切り風呂で寛ぐ。アルピ二ズムやチャラいクライミングとはかけ離れてはいるが、何か昔を懐かしむような一泊二日の木曽の山旅だった。帰りは中津川IC近くの「川上屋」で栗きんとんを買って帰る。

ここの栗きんとんは元祖らしく、小さくて一個280円もするが、何度食べても絶品の味で、家族にも喜ばれる。次は厳冬期に雪洞泊で奥美濃経ヶ岳でも登る計画を考えながら帰路に就く。