南アルプス 聖岳 残雪期縦走
- 山行日
- -
- 山域、ルート
- 南アルプス 聖岳
- 活動内容
- 残雪期縦走
- メンバー
- T
南アルプス 聖岳 残雪期縦走の山行記録
深くて遠そうなので、どちらかと言えば避けてきた南アルプスに挑戦することにする。最新のエアリアマップを買ってきて登れそうな山はないかと探すと、易老渡を起点として聖岳~上河内岳~茶臼岳~易老岳~易老渡と戻る周回コースを辿ると一挙に百名山と二百名山、三百名山と三つもゲットできるので、安易に計画を練り、提出する。聖岳は3013mもあるが南ア最南端だし、雪も少な目ではないかと勝手に素人判断を下す。また、稜線上に避難小屋が2か所あり、それらを繋げればテントも持たずに軽量化を図れるのではないかと都合よく考える。あとは行くだけだ。事前に、計画が盛り過ぎではとの指摘を受け、心する。
諸情報を集めると、2018年の台風被害でアプローチの林道も結構被害を受けているようなので気を付けねばならない。しかし単独だと出発するのに多大なエネルギーが要る。
中止しても誰にも迷惑はかけない。しかし行くと決めたからには行くとして、家族に呆れかえられながら車に荷物とアプローチ用のMTBを詰め込んで前夜21時いざ出発。
しかし出発したのは良いが、関ケ原辺りで睡魔に襲われ、運転に困難を感じたのでSAで仮眠する。約1時間。仮眠が効いたのかそのあとは順調に走り、一気に飯田ICを降り、山道をくねくねと走り、下栗の里に到着。そこから又山道を走り、北又渡の所にある水力発電所に到着。駐車場はあるが目指す芝沢ゲートの駐車場はまだ先だ。しかし眠いので適当な道端で車を停めて仮眠。
翌朝目覚めると飯も食わずに林道を詰めあがる。しかし次第に道路崩壊が進み何やら嫌な雰囲気が漂う。車で詰めあがると立派な芝沢ゲート駐車場が出現。アスファルトで綺麗だが途中で万一土砂崩れがあるともう帰られないのでここは諦め700M程下の発電所まで戻る。釣り師の人に出会う。飯を食いMTBを組み立て颯爽と出発。天気は曇り。
芝沢ゲートから30分も漕ぎあがると突然林道が消えている。台風の洪水被害で道の土台から消えている。ここでもはやMTBを諦め、残置して徒歩に変更。トホホ。
崩れた斜面を慎重に超えていくとまたすぐに道が根元から消えている。そんなことを繰り返しながら約1。5時間歩いてやっと易老度に到着。登山ポストがあるので計画を提出しておく。そこから尚30分ほど歩くと便ヶ島広場に到着。以前は賑わっていたらしく、キャンプ施設や自販機、流し場、残置された車や重機まであるが、今では最早すべてが陸の絶海の孤島、道が消えていてはどうしようもない。ただ、子供たちが発していただろう歓声が虚しく聞こえてくるような気がする。ああ、いいちこが呑みたくなってきた。
そこから尚も川沿いの荒れた道を進むと人力ロープウェイが出現。これは面白いと童心に帰って早速乗り込み、1/7システム位の滑車を使ったロープを引っ張って対岸へと進む。初めはよかったが途中からは重くなり最後の方は渾身の力でロープを引かないと前へ進まない。10分以上かかる。増水時以外は多少濡れても渡渉した方が早そうだ。しばらく休んで腕力が回復してから出発。沢が両側から流れており、ルートは中間の尾根上のようだ。北東方向へ快適に距離を延ばす。このスピードなら当初の計画通りにいけそうだ。と思ったのは雪が現れるまでだった。途中。苔むした雰囲気の良い台地があり、はあーこれが地図上にある苔平だなと、勝手な素人判断を下す。となるともう尾根の半分も来ているではないか。アラ還の割には何故こんなにペースが速いのだろうと悦に入る。やがて雪が出てきて期待のトレースは予想通りどこにもない。そのうちツボ足では潜るので、久々にワカンを付けることにする。最近はスノーシューが多かった。
ワカンでも膝前後まで潜るので結構辛い。急激にスピードが落ちたのでここで初めてスマホを出し、地図ロイドで現在地を確認する。とガビーン、尾根上の1/4も来ていない。
狐に摘ままれたような気持で焦りながらラッセルを続ける。しかし焦っても焦っても30分で300mも進まない。うーむこれはまずい。何かいい手はないかと考え、そうだ飯を食えば馬力が出るだろうと考え食べるが馬力が出たのは2,3歩までだった。
うーむワカンではなくスノーシューなら殆ど潜らないので遥かに楽だったろう。重いので家に置いてきたが。鹿の糞をチョコボールと間違え、赤茶けた樹皮を赤テープと見間違う幻覚に襲われながら黙々と進む。道を自分で作らなければならないので神経を使う。あ!足跡だと思ったら熊の足跡だったりする。そのうちに二足歩行を辞め四足で踏ん張ると意外と潜らず快適に進むことを発見する。はあーこれは世紀の大発見かも。
しかし直立猿人から進化した自分がここで四足歩行の獣に後退することに抵抗を感じ誘惑を打ち消す。俺は人間なのだと。
午後3時を過ぎたので、寝床の選定作業もしなければ。雪洞を掘るほどの雪もないのでツエルトになりそうだ。嫌だなあ。何とか頑張れば聖平小屋迄辿り着けるのではないか?
自問自答しながらシラビソの樹林の中を進む。夏なら小屋迄1時間ほどのはずだが。
15時40分、遂に諦めビバーク決定。そうと決まれば急いでツエルトを張らねば。
木と木の間にロープを渡しツエルトを張る。そして地面にありたけのシートを置く。
飯を食って一寝入りしたら、あとは長い時間を狭さと寒さと戦うだけだ。外気とは薄いナイロン一枚なので夜はマイナス5度位か。その点雪洞なら何故かはわからないが絶対氷点下にならないのでまだ暖かい。どちらにしても快適ではないので一晩で体力は奪われる。
長い夜が明け太陽が昇ると暖かくなり思わず二度寝してしまい出発は7時となる。
こうなったら周回縦走は諦め、何とか聖岳登頂を目指す。夏道コースタイム1時間を約2時間半かけてやっと薊畑の稜線に出る。しかし相変わらずシラビソの樹林帯で展望も優れず高揚もしない。ここは聖平小屋と聖岳への三叉路となっており、余分な荷物は木にぶら下げて残置して荷物を軽くしてから聖岳へと北に上がる。このあたりから雪質が変わり、妙に粘土のようにワカンやアイゼンに纏わりつく。2,3歩歩くたびにピッケルで叩いてやらないと、すぐに10センチほどの雪団子がつくので大変だ。
アイゼンはペツルのパサックでアンチスノープレート付きだが。。雪の上でゴキブリホイホイに捕まったような感じで進むが、南アルプスはスケールが他の山域とは違いなかなかに遠い。しかも雪の斜面が微妙でアイゼン団子ではやや危険だ。しかもどこまで行っても樹林帯から抜け出せない。いい加減に嫌気が差してきたので、小聖岳を目前にしながら樹林帯がもう少し切れるというところで進退を考える。時刻は13時。このペースで進んでもまともな時間に登頂は無理そうなのであっさりと引き返すことにする。
薊平まではトレースもあるので小一時間で戻る。そこから聖平小屋迄がまた遠い。
夏道25分だが実際1時間30分程かかった。しかも小屋が水場の近くに建てたためか樹林の奥にあり、辿り着くまでGPSのお世話になる。昨日焦ってそのまま突っ込んでいたら小屋着は確実に20時を過ぎていただろうと思うとぞっとする。昼でも見つけにくいので夜ならもっと苦労するだろう。小屋に着くと冬季入口が雪で塞がっているので掘り出しに30分かかる。やっと入ると真っ暗だが、昨日のホームレスと比べると贅沢は言ってられない。15時過ぎから宴会を始め、昨日食べ損ねた食材を料理して軽量化に努める。18時就寝。明日は午後から天気が崩れるらしいのでさっさと下山したい。
翌朝4時起床。ラジオ深夜便を付けると、ヒデとロザンナのロザンナさんのインタビューを再放送していて何回聞いても感動させられる。内容は省くが一言で言えば「愛の奇跡」か。(そのまま!?)軽量化のために朝飯をたらふく食べ、5時出発。天候も安定しているので自分のトレースが期待できる。トレースがあればこんなに楽だとは!さっさと下りて9時に西沢渡、10時30分易老渡、12時渋沢ゲート着。そこから少し降りた所で来た時にはなかった土砂崩れを確認し、ぞっとする。もしゲートまで詰めて車を停めていたらこの大きな石を自力で動かすのは不可能だろう。そうなると歩いて助けを呼びに下りるか、助けが得られなければ近い里まで辿り着き、電話を借りてタクシーを呼ぶしかない。当然車は土砂崩れが復旧するまでは何か月か何年か放置。ぞっとした。
途中で温泉に立ち寄り、三日間の汗を流して帰神。何故か、できることはやり切ったという妙な達成感だけは残った。しかし積雪期に再訪することはないだろう。
NOTES:
- スマホは主に地図ロイド使用で機内モードで使うと三日間で残り電源1/3だった。
- 燃料は冬用小ボンベで残1/4.やはり水を雪で作るのでよく減る。
- 動物は多数。人影はなし。
- 携帯電波は入ったり入らなかったり場所によって違った。
- このあたりの山域では標高2600m付近までシラビソ樹林帯でそこからいきなり雪面となる。ハイマツは見当たらなかった。山々はのっぺりとしていて登高意欲はあまり沸かないがどれも登り下りが激しく、スケールも大きくて体力が要る。またアプローチの林道の崩壊が激しく、降雨後はさらに注意が要るだろう。道路法面状況をよく見て危険を感じたら安全を期して手前に車をデポすべきである。一か所でも崩れたら、もう帰られない。また、夜間の走行や、クラクションの音だけでも反響で崩れそうなので注意が必要。
- 何故か写真がアップロードできない。。