戸台川本谷 アルパインアイスクライミング
- 山行日
- -
- 山域、ルート
- 戸台川本谷
- 活動内容
- アルパインアイスクライミング
- メンバー
- 谷川(CL、記録)、長野、S田(会外)
戸台川本谷 アルパインアイスクライミングの山行記録
概要
要約
戸台川本谷から甲斐駒ヶ岳を目指したものの、雪が多く断念。五丈ノ滝F1、F2、駒津沢F1を登りました。
行程
12/29
戸台河原駐車場から丹渓山荘まで
12/30
03:30 起床
04:50 丹渓山荘 出発
07:30 五丈ノ滝F1 登攀開始
09:30 五丈ノ滝F2 登攀終了
10:30 水場ノ沢出合 到着
--休憩、アイスクライミング--
15:30 駒津沢F1取り付き 下山開始
20:30 丹渓山荘 到着
12/31
丹渓山荘から戸台河原駐車場まで
背景
これまで自分は仙人沢や神津牧場、足尾、地獄谷など、ゲレンデ的なアイスを何度か経験したものの、アルパインアイスの経験が少ないと感じていました。
そこでアルパインアイスの登竜門として知られる黄連谷右股に行く計画を立てていました。しかし、低気圧により同ルートの氷は既に雪の下であるとのこと。
そこでメンバーから代替案を募り、S田案の戸台川本谷を甲斐駒ヶ岳を目指すこととしました。
こちらも積雪が多そうで、稜線まで抜けるのは大変であると予想されましたが、支流に高い氷瀑が多く、抜けれなくてもアイスを楽しめると考えられました。
メンバーは会の長野さんと、僕がOBである山岳部の後輩のS田です。
S田はかねてから黄連谷に興味があるとこのことだったので誘っていました。
行動詳細
戸台河原駐車場~丹渓山荘の往復は単調なので割愛します。
12/30 本谷溯行
天候:コンスタントに雪
風:谷の中は気にならない程度だが、山頂は強そうであった。
積雪:深さは20cm~斜度によっては腰辺りほど。
準備で手間取り計画より20分遅れで丹渓山荘を出発した。今日はアタック装備だけ持って遡行し、本日中に稜線まで抜けれなそうであれば、周囲のアイスを登る計画である。赤河原までは登山道を辿る予定であったが、積雪のため道が判然としない。そして12/28まで戸台河原駐車場手前が通行止めであったため、トレースは29に入山したパーティの分だけで薄い。そのためルートファインディングに時間を割いてしまった。
登山道も意外と歩き辛い。河原やその脇を歩くが、粒が大きい河原の岩の上に、クラストした層を挟んで新雪が二層になって乗っている。滑るわ踏み抜くわ、ラッセルが必要だわで中々ペースが上がらない。
また、赤河原出合手前の斜面のトラバースと下降が意外と悪く、慎重に通過するために時間をかけた。
そんなこんなで五丈ノ滝F1の取り付きに到着したのは7:30。計画の2時間遅れであった。
やっと本題のアイス!やっぱり氷瀑は綺麗だ!
水流近辺は氷が薄いものの、流れの左右どちらも下から上まで氷が繋がっている。
じゃんけんで勝利したS田がリードをする。
S田は水流に向かって右を登る。序盤3mくらいは垂直だが、あとは階段上だ。危なげなく登っていく。
因みにS田は仙台の学生である。東日本のアイスクライマーなら知らぬ人はいないほど有名な仙台の仙人的なクライマーがいて、その弟子でもある。
アックスはメルカリで買ったと言う、MIZOの北斗を使う。よくそのアックスで登れるなあ。良い子は真似しないで、ノミックを買った方が良い。
セカンドの長野さん、ラストの谷川も問題なく通過した。
まだ氷が薄く垂直部があるため、ガイド本のグレードより辛く感じた。IV+くらい?
上はまだ氷が薄く終了点が乏しかったようで、直径80cmほどの岩にスリングをかけて支点としていた。
F1を越えると程なくしてF2が現れた。
遠くから見ると上部が薄そうであったが、近くで見たら十分な厚さがありそうだ。
ここは僕がリードをやらせてもらう。
なんてことない階段状のアイスであった。
IVくらい?
ここも終了点が乏しく、岩にスリングを引っ掛けて支点とした。
登攀自体は概ね想定通りの時間で終えられたが、それまでの遅れがきつい。
積雪深が更に増してきたため、アイゼンの上からワカンを付けてワカンポンで登っていくこととした。
僕が先頭でラッセルするが、後ろは後ろで歩きづらそうで間隔が空いてしまう。結局水場ノ沢出合まで一時間くらい一人でラッセルした。
しかし、前半の遅れを巻き返すことは難しい。また、稜線まで上がっもラッセル祭りと強風が待っているため、余裕を残せないのであれば危険である。ここで稜線まで抜けることを断念した。
むしゃくしゃしたので水場ノ沢手前の小さいアイスをワカンポンのまま登った。
稜線までは行けないものの、この谷には魅力的な氷瀑がいくつもある。
今回は初見のインパクトが強かった駒津沢F1を登ってから山荘に戻ることとした。
奥駒津沢F1も魅力的であったが、上部の様子が見えないし、チリ雪崩が頻発していた。一番星はまだ細かったし、そもそも山中では同ルートをそれと認識していなかった(考察を参照)。
駒津沢F1は高さ70m、2ピッチ。
1ピッチ目は僕、2ピッチ目はS田がリードした。
高さのある滝は格好良いし楽しいなあ。
IV+くらい?
下降は左岸の木を使用して、2ピッチの懸垂。久しぶりの空中懸垂で、これも楽しい。
そして丹渓山荘までの下りが始まった。
五丈ノ滝F2は、これも左岸の木を使って懸垂した。もしかしたら駒津沢F1の下降から谷に降りずに繋げられたかも知れない。
五丈ノ滝F1の下降が厄介であった。
懸垂支点がない。両岸は少々立っており、支点に向いている立ち木までフリーで行くのはちょっと怖い。
アイスもまだ薄く、アバラコフは作れなかった。
そこで右岸に見えた怪しい残置ハーケン二枚とスリングを使うこととした。
しかしこれが間違いであった。
最初のS田が5mくらい下った時であった。
バツンッ!!
残置ハーケンの内の一枚がちぎれた。
あわててS田にセルフビレイを取らせる。
幸いバックアップでハーケンを一枚足しておいていたが、これがなかったらもう一枚の残置ハーケンもちぎれていたかもしれない。そう思うとぞっとする。
急いで追加のハーケンを打つが、中々決まらない。やっとハーケンを打ち込み、未だ不安定な支点で下降を再開した頃には日が暮れかけていた。
しかし、まだ問題があった。
S田が下降を再び停止し、こちらに向かってなにやら叫んでいる。こちらは水流の音でなにも聞こえない。
水流から離れた位置にいた長野さんを経由して話すと、空中懸垂が必要だが支点の強度は問題ないか聞いているようであった。
ハーケンを足したものの、未だに支点の強度は低そうである。そのため、NOであることを伝え、アバラコフを作らせた。
怪しい支点とアバラコフでなんとかF1を下った時には、既に18時で辺りは暗かった。
F1から山荘までも、空腹や疲労からペースが上がらず、20:30に到着した。
考察
序盤の遅れに関して
主な要因として、積雪、河原の悪路、氷の薄さが挙げられる。斜面や尾根のラッセルであれば今回くらいの積雪でも十分稜線まで抜けられたと考えられるが、粒の大きい岩の上に新雪が2層乗っていたことで、足場の確認や踏み抜きに手間取った。これまでラッセルありの場合は獲得標高200m/hで行動時間を計算していたが、沢地形では辛めに見積もる必要を感じた。
また、雪の割に水流の氷結が甘く、何度も踏み抜き行動に支障が出たし、ブーツを濡らしてしまった。
スクリューに関して
今回はペツルとBDのスクリューを使用したが、ペツルの方が食い込みがよかった。
また、今後トップロープでアイスを練習する際でも、時間が許すのであればスクリューを打つ練習をしながら登った方が良い経験になる。
五丈ノ滝F1の下降に関して
今回はアバラコフに十分な厚さの氷がなかったため、ハーケンの支点で懸垂下降したが、左岸をなんとか上がって立ち木で懸垂する方が安全であった。
一番星の位置に関して
『新版アイスクライミング』に描いてある一番星の位置は誤っていると考えられる。同書籍では水場ノ沢出合の上流に描かれているが、正確には奥駒津沢の上流すぐに存在する。これは他のパーティの記録と比べても矛盾はない。
その他にも今回は確認していないが、遠き道程の位置も誤っているという記録もあるため注意が必要だ。
甲斐駒ヶ岳西面周辺域のアイスに関して
戸台川本谷やその支流には魅力的な氷瀑が多い。特に一番星は、それに向けて適切に準備すれば登れそうである。今回は同ルートをそれと認知していなかったため、ほとんど偵察しなかったことが惜しまれる。パートナーがいれば是非登りに行きたい。
また、戸台川周辺には塩沢や岳沢など氷瀑が多い谷がまだある。
甲斐駒ヶ岳西面周辺でアイスを登りこめば、相当力が付きそうである。
通行止めに関して
12/28まで戸台河原駐車場手前が通行止めであったが、僕は実はその情報は山行の直前まで認知していなかった。タイミングが悪ければ計画を中止する要因となるため、計画段階で把握する必要がある。
計画書に項目を設ければ忘れないかなあ。
ギアの紛失に関して
本山行ではギアの喪失が目立った。パーティ全体で合計すると、残置支点と、五丈ノ滝F1の下降のどさくさでスクリューの一部やわかんも紛失してしまった。山には人工物をなるべく残すべきではないので、他の登山者に申し訳ない。ビナやスリングに通さず中途半端に外付けしていたものが失くなってしまったので、外付けはビナやスリングに通すことを徹底する。
個人的に
これまで行動食は1000kcalを目安にしていた。しかし、長時間行動の場合、それでは足りないため1500kcalを目安とする。
所感
甲斐駒ヶ岳まで抜けることはできず、丹渓山荘までの下降も大変であったものの、氷瀑を登れて個人的には満足でした。このエリアはアイスが多く、シーズンも長いので、今後も通いたいです。
今回は上まで行くにも下降するにもコンディションが悪かったと思います。
この中でも、最低限安全に下れるだけの能力はあると思っていましたが、五丈ノ滝F1の下降でパーティを危険に晒してしまいました。大きな反省点です。
長野さん、若輩者二人が振り回してしまいすみませんでした。最後まで身勝手な行動に付き合っていただきありがとうございました。
S田、卒論で忙しいのに仙台からきてくれてありがとう。また一緒に登ろう。
今度は仙台のアイスをまた登りに行きたいな。
最後に、入会してからアイスクライミングの魅力について頻繁に訊かれるので、言語化してみます。
そもそも僕は、対象の地形を全力で味わう行為としてクライミングに魅力を感じています。
そして氷瀑は、地理的にも気象条件的にも厳しい条件が重なって初めてできる希少な存在であり、また、巨大で青く透き通る姿はどの宝石より綺麗です。まさに非日常の象徴のような存在であると思います。
つまり、非日常の象徴的存在を全力で味わえる。それがアイスクライミングの魅力だと思います。
以上。