五竜岳 G5稜 残雪期アルパインクライミング

山行日
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山域、ルート
後立山連峰 五竜岳 G5稜
活動内容
残雪期アルパインクライミング
メンバー
岩瀬た、OKD

五竜岳 G5稜 残雪期アルパインクライミングの山行記録

こんにちはOKDです。
GWの休みを利用して岩瀬た君と五竜岳G5稜を登ってきました。
自分でもおかしいくらいに気持ちの揺れがあったり、僕にとって「あぁこれが山だな」と思ったりしたのでダラダラと書き連ねてみました。あくまで個人的な感想です。
詳細は岩瀬た君の記事を参照してください。

4月29日

午前1時半に岩瀬た君の家まで車を走らせる。
夜勤明けで仮眠してからの出発とはいえ身体は重い。
岩瀬た君と運転を交代しながら、午前7時過ぎにゴンドラ乗り場に着いた。
乗場は徐々に行列ができ始め、我々もスキーヤーに紛れて8時15分始発のゴンドラに乗り込んだ。
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山上駅に着いて空を見上げると、どんよりと曇っている。今日は午後から雨予報。行動を11時までとし、雨にあたられる前にテントに滑り込むことに決めた。
岩瀬た君は小気味良いリズムで高度を上げていく。僕はその後ろでゼェゼェ。
「11時までにどこまで行けるかなぁ」などと話しながら、大遠見を過ぎたあたりでタイムリミットになりテント設営を開始した。
僕は「寝れさえすればいいや」と雪を掘って適当に壁になるように積みあげていたが、ふと岩瀬た君を見ると丁寧にブロック状に雪を切り出し、レンガのように積み上げている。こういうところに性格が出るよな。。
童話「三匹の子豚」だとこの後どうなるんだっけ。
そうこうしているうちに雨がポツポツと降ってきて、ペグダウンする頃にはまぁまぁ雨に濡れてしまった。
「巧遅より拙速を尊ぶ」という言葉を再確認。
今日の行動はここまで。本来なら明日のためにトレースを付けに行きたいところだが、この雨では仕方ない。豚汁とかやくご飯で早めの晩飯とする。
今日中にトレースを付けられていないので、明日はできるだけ早めに出発したいなぁと思いながら天気予報を見ると午前4時頃まで雨が残る模様。
最悪明日は中止で撤退かな。そんなことを考えながら「やってやる」という気持ちと「早々に下山できる理由ができたならそれはそれでいいな」という、登山前特有のナーバスな気持ちの中で揺れながら、バタバタと風に煽られるテントの音を子守唄に眠りについた。

4月30日

2時半起床。テントは未だ風で煽られている。
岩瀬た君がテントの隙間から外の様子を伺う。「粉雪が舞ってますね。」やれやれ。今日は早々に下山して温泉コースか。
出発のタイムリミットを6時に決める。朝飯のうどんを食べながら天気予報と睨めっこを続けた。
朝飯後、岩瀬た君がルーティンワークの一服をつきにテントの外に出た。「めっちゃ晴れてますよ!星も綺麗です!」やれやれ。これは山の神さんが行けと言っているに違いない。覚悟を決めるとするか。

準備を整えてテントの外に出ると、空が白み始めていた。薄明かりに浮かぶ五竜岳が美しい。
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4時半出発。
西遠見の少し手前からシラタケ沢へ向けて下降する。
正面には圧倒的な雪壁、眼下には幾筋もの雪崩の跡が見える沢。覚悟を決めたつもりだったが「えらいところに来てしもたなぁ」と若干の弱気が顔を出す。
雪崩の恐怖に慄きながらA沢~C沢までトラバースを続け、ようやくG5稜取り付きのルンゼに着いた。
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1ピッチ目リードは岩瀬た君。
「初っ端は緊張するなぁ」などと言いながらも、終始落ち着いて支点を取りながら雪壁を登っていく。
僕も後に続く。
日の当たる部分は雪が緩み始めているが、アイゼンで蹴り込めばしっかりとステップがきれたし、アックスもしっかり効いた。ホッと一安心。

続く2ピッチ目は僕のリード。
左側に回り込んでさらにルンゼの雪壁を登り、リッジまで。傾斜はきついが1ピッチ目を終えて体もほぐれていたし、スムーズにこなせた。
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リッジに出ると傾斜が緩まったのでロープを畳む。
しばらくは雪稜歩きだがシュルンドを右へ左へ避けながら、雪壁を右や左へ巻きながらを繰り返し途中で何度もルートを見失いそうになる。

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そうこうしているうちにD沢からのジャンクションピーク手前まで来て壁が立ってきた。
壁はハイマツ帯となっていて、ロープは「いらないだろう」ということになり藪漕ぎの開始。
進むにつれ壁が徐々に立ってきて藪も深い。
おかげでとことん喘ぐこととなった。こういう時は身体の大きさが仇となる。
しばらく藪を漕ぐと岩瀬た君の進みが止まった。どうしたのかと問うと「ここからちょっと悪いです。枝もグラグラします」とか。なんとか越えることができて上からロープを垂らしてもらい後に続いたが確かにその部分は枝も半分腐っててグラグラしていた。
藪漕ぎでもがいた後の緊張する局面。「もっと早くロープ出すべきやったね」とお互い反省。この山行中、自分はこのピッチが一番疲れた。

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ジャンクションピークを超えると有名なキノコ雪の岩峰が目の前に。
雪はだいぶ溶けてキノコの様相は無く、尖塔のようだった。

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しばらく休憩しながらどうやって越えるかを相談する。記録では左に懸垂下降して裏から登り返したり、右側をトラバースしたり、さまざま。

しかし目の前の尖塔は事前に見たどの記録よりも雪のつき方は少ない。左のハイマツを辿ってトラバースか、露岩部分を直登の2択に思えた。
近づいてみると基部にハーケン2枚のビレイ点があり、1段上がったところにも残置のハーケンがあったので「これは直登だな」と意見も一致した。迷った時は直登が一番スッキリしていいのだ。

キノコ雪1ピッチ目は岩瀬た君のリード。
左の岩に薄くへばりついた氷にアイゼンの前爪を慎重にかけて体を持ち上げる。さらにもう一段細かいスタンスに乗り上がり、残置のハーケンにスリングをかけた。ナイス。それを使ってA0、マントル返しで棚に乗り上げ、ハーケン1枚を打ち足して尖塔の向こうに乗り越した。
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続く僕。

岩瀬た君が一歩目で使った氷にマネして足をかけたが氷はあっけなく塊となって落ちた。幸い右手はガバで左足一歩目だったのでズリっとなってスタートに戻っただけだが。さてどうするかと思案してよく観察すると、氷の剥がれた岩に細かいスタンスがあることに気づく。そこにアイゼンの前爪をかけてソロリと立ち上がると岩瀬た君がかけてくれたスリングに手が届いた。モノポイント万歳。
その後は岩瀬た君と同じように登ったが、身長とリーチがあるおかげで上の棚やいいホールドに上手い具合に手が届き、意外にすんなりと越えることができた。ありがとうお母さん。
キノコ雪2ピッチ目(岩稜基部までのトラバース)僕のリード。
尖塔を乗っ越した先は雪がこんもりと付いたスノーリッジが岩稜基部まで続いている。右も左も傾斜はかなりのもので、右側にあってはどこから雪庇状になっているかも想像がつかない。
スノーバーを刺してみたものの効いている手応えは無く、気色悪いことこの上ない。
あまり右に寄り過ぎないように気をつけながら、雪が比較的締まっていそうな部分を選んでカニ歩きで進みなんとか岩稜基部に到達した。
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キノコ雪を越えてトレースを振り返ると、キノコ雪手前で歩いていたところは巨大な雪庇の上だった。南無三!

そしてとうとう最後の岩稜帯である。
1ピッチ目は段々となった雪と岩のミックスだが、2ピッチ目のルート取りが僕には見えてこない。
雪の眩しさで目が疲れたのか、はたまた山に圧倒されているのか、どうも遠近感が掴みづらく岩壁のスケールがよくわからないのだ。
岩瀬た君にそのことを話すと「僕はバッチリ見えてますよ!任せてください」との返事。
頼もしい漢である。
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1ピッチ目(岩瀬たリード)

1ピッチ目は岩と雪のミックスで、雪が段々になっていて先が見えづらいルートだった。
下から見ていると左に寄った方が傾斜が緩くなっているように見えたが、岩瀬た君は果敢に正面の雪壁に向かって行って「ここ悪いですよ」とか言ってる。
岩瀬た君に「左の方がいいんじゃないの?」と声をかけたら「左ですか~?」と半信半疑だったがすぐに「左正解でしたー!」と返事が返ってきた。おい!見えてないじゃないか!
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2ピッチ目(岩瀬たリード)

壁が立ってくる直下の灌木でビレイ点を構築する。
近づいてみるとようやく壁のスケールがわかって、ルートとしては右の草付きを右上トラバースか左のルンゼからハイマツ漕ぎの2択に思えた。
頭上に垂れ下がる雪庇の下で岩瀬た君と相談すると「ここはルンゼからのハイマツ漕ぎですね!」と即答。どうやら登山大系にも載ってるスタンダードなルートらしい。
灌木を利用して1段上がり露岩を少し登ったところで「残置ハーケンがありますよ!」と声がかかる。ちょっと一安心。
しかしそこからのトラバースがスラブ岩でスタンスに乏しく、頭上にはグズグズの雪が被っていてアックスも効かないようである。さすがの岩瀬た君も「悪いですね」と一歩を踏み出すのに躊躇している。
最後は残置ハーケンにスリングをかけて、A 0で両腕いっぱい伸ばして左の露出した岩のホールドを取り、ハイマツ帯に飛び込んだ。
ん?その作戦、フォローで回収の僕使われへんやん?
その後もハイマツ漕ぎで屈曲したロープに苦労している様子で、なかなかロープが延びない。そうこうしているうちにビレイ点は日陰で寒くなってきた。が、以前に行った石尊稜よりは全然マシか。やっててよかった石尊稜。
しばらくしてビレイ解除のコール。60mロープは半分も出ておらず、ロープアップもさぞしんどかったろう。
続く僕。心配していたトラバースポイント。
残置ハーケンにかけたスリングを回収し、どうするかと思案。テムレスの上からでも第一関節がかかるカチを右手で取り、左足アイゼンのモノポイントをスラブ岩の窪みに慎重に乗せる。
そのまま左にトラバースしようとしたがどうにもバランスが悪い。悪いなぁと思いながら一旦ぐっと下に沈み込むと右手のカチがよく効いたので、そのままのバランスでゆっくり左足に体重を移すと左奥のハイマツに手が届いた。クライミングやっててよかった。やったぜ!リーチの勝利!ありがとうお父さん。
一安心して先を見るとハイマツの枝を上下に縫うようにロープが延びている。これはロープ重かっただろうな。グチャグチャになりながらハイマツを漕いでいると動物になった気分で、山と一体になれた気がしてきた。そして最後の一踏ん張り、ハイマツ帯をグイと乗り上げると稜線に飛び出した。

稜線では岩瀬た君が満面の笑みで迎えてくれた。
やったぜ!生きて帰ってきたぜ!

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13時半、これにてG5稜の登攀は終了!
登攀が終わると充実感に満たされ、またチャレンジしたくなる。今朝のナーバスな気持ちからの振り幅が大きすぎる。山行の中で目まぐるしく変わるメンタル。それを制御し、自分を見つめ直し、また新たな自分を発見する。これが山なのだ。
あとはテントまでの意外に長い帰路を歩き、岩瀬た君特製の意外に辛い麻婆麺をヒーヒー言いながら貴重な雪山の水を大量に消費しつつ食べ、勝利の晩餐会を楽しんだ。

あとがき

この冬は岩瀬た君と多くの山行を共にした。
雪山をあまり知らない僕にとっては、少し背伸びした山行もあったように思う。
しかし、雪山の経験を着実に積んできた彼からパートナーとして声をかけられた事は素直に嬉しかったし、行くと返事したからにはなんとしてもルートを抜け切るのが僕の最低限の使命だと思いチャレンジしてきた。
結果、自分の雪山のスキルも上げることができ、大峰の氷瀑も初登し、今回の山行によっていい形で冬山を終えることができた。
この冬、充実した山行ができたのも彼のおかげと言っても過言ではない。
「どこに登るか」よりも「誰と登るか」の意味を実感した冬でもあった。
冬が終わると沢のシーズン。クライミングのスキルも上げながら夏を迎えたい。ありがとう!