穂高岳 バックカントリー、山スキー、残雪期アルパインクライミング
- 山行日
- -
- 山域、ルート
- 穂高岳
- 活動内容
- バックカントリー、山スキー、残雪期アルパインクライミング
- メンバー
- 藤本 (L)(記) (板 グレー、ブーツ 黄色)、三浦 (板 オレンジ、ブーツ オレンジ)
穂高岳 バックカントリー、山スキー、残雪期アルパインクライミングの山行記録
今年のGWは「穂高で山スキー」を
満喫しようとかなり欲張った計画を立てた
それが直前4月下旬の大雨の影響により北アルプス、
上高地につながる県道が土砂崩壊により通行止めと
なった
直前の計画変更は時間的に準備が大変で、
この時点では考える気にはならなかった
「お願いします~」
だが懸命の復旧作業により4月29日には開通され
安堵した
山行の概要はこの様なもの
1日目 前穂高岳 (3,090m)
2日目 奥穂高岳 (3,190m) ロープ使用
3日目 涸沢槍 (3,103m)
4日目 北穂高岳 (3,106m) ロープ使用
4日間で「3,000m峰」を4回登頂して頂上から
滑降するという内心無謀とも思える計画
今回、同行して頂いた先輩は少し宇宙の方なので
「何でも大丈夫ですよ」と言う
嬉しく、また安心できる懐の深い方だけど ... (笑)
はたして体力的にもつのか?
1日や2日間ならハードな山行は可能だが、
3日目は全力でレストしたがる身体を鼓舞して
乗り切る
4日目は ...
とにかく気持ちを強く保つ事が一番重要
理由を探し諦めようとはしない
成し遂げる方法を冷静に模索して前進する
でも不安が拭えない
以下、山行記録です
装備 (主な物)
山スキー 標準装備
登攀具
ダブルアックス
アイゼン
シングルロープ 8.5mm 50m
カム C4 #1.0#0.75#0.5#0.4#0.3
ナッツ
スリング他
無線
総重量 22kg (藤本)
行動詳細
1日目
2:30 あかんだな駐車場
深夜なのにGWなので次々と車がやってくる
必ず始発バスには乗りたいので何時から順番
待ちをすれば良いのか分からないがとりあえず
寝付けのビールを飲み1時間だけ仮眠
起床、まだ睡魔が ...
朝食のざる蕎麦をかきこむ
4:50 始発バス発 → 5:25 上高地着 (1,500m)
ガスが抜け穂高の稜線が見えて
テンションが上がってきた!
お約束の河童橋でパシャリ
「例年より雪は少なそう」
遠望してまだこの時点では呑気な事を言ってる
小一時間ほど夏道を登ってきたがまだ雪は
現れない
天然クーラーの風穴はいつ来ても気付かない
振り返れば霞沢岳、遠くには乗鞍岳が見える
「やっぱり上高地は最高!」
まだまだ観光客気分
2時間ほど登り漸く沢筋の雪が繋がってきたので
シールを張る
30分ほどで岳沢小屋がひょっこり現れた
嬉しい誤算
(2,170m)
※ 結局4日間でシールを使用したのはここだけ
今夜のお宿の岳沢小屋に不要な荷物をデポして
奥明神沢を詰める
午後からは小雪と稜線の風は強めの予報
天気と競争しながら高度を上げて行く
↓ (写真)
左:奥明神沢 右:明神岳に伸びる沢
前日の降雪により踝ほどのラッセル
表面がうっすらパックされていて登りづらいので
グレーに見える雪付きの少ない部分を進む
落石は少なく心配はない
かなりの斜度で直登はできない
ひたすらジグを切って上がる
固い雪面がありアイゼンの片側しか刺さらない
ダブルアックスで3点支持をしないと滑落しそう
「初級のアイスクライミングレベルみたい!」
ロッククライミングやアイスクライミングは
やっているので登攀は問題ないが
スキー滑走に難のある私はもうドキドキもの
遥か上の稜線は風が強くなってきた
と思えば雪も
だが標高を上げて行く
計画では
奥明神沢 ~ ダイレクトルンゼ ~ 前穂高岳
前穂高沢 ~ 岳沢小屋
ダイレクトルンゼの二俣手前で視界が悪くなって
きて天候が好転する気配もなかったのでモード
チェンジして滑降する事に
この時、
「初日から敗退癖がつくのを懸念した」
事を記憶している
少し期待した雪はワンターンで悪いと気づく
重い!
スキー板の上にドッサリ雪がのって足かせの様
トップが雪に潜ってターンができない
太腿に乳酸が溜まる~
へっぽこスキーヤーの私には辛すぎる
小屋に戻り仮眠しようとするが噂通り寒すぎる
夕食まで、持参したバーボン(500ml)を飲み明日
からの期待に胸を膨らませる
スキー集団の猛者、シーハイルの方々もおられ
色々なお話ができた
何か自分は場違いな様に思えた
また共通の友人だらけで世間の狭さを痛感した
2日目
(訂正 2~3日目)
2:30 起床
4:30 岳沢小屋 (2,170m) 出発
計画では
奥穂高岳南稜 ~ トリコニー ~ 南稜ノ頭 ~
奥穂高岳 ~直登ルンゼ滑降 ~ 涸沢ヒュッテ
この「奥穂高岳南稜」はウェルター・ウェストン
と上條嘉門次が1912年に初登した超クラシック
ルートである
しっかりと堪能しよう
天気は晴れ、風は穏やかだが冷え込む予報
外にはテントが5張りほど
そのうちの若者6人パーティが先に出発した
若者パーティは右往左往して取付を探している
我々は現場判断で取付こうと決めていた
選択肢は4ヵ所?
(1) 尾根左側を巻き上がり乗り上げる距離を
少なくする (遠目には弱点なのか判断がつかない)
(2) 尾根末端から乗り上げる
(簡単そうだが藪漕ぎが長そう)
(3)尾根右側を巻き上がり乗り上げる距離を
少なくする (遠目には弱点なのか判断がつかない)
(4) (3)の更に右側から?
結局、(3)を選択
クライミング要素があり、
藪漕ぎが少なそうだった為
↓ 写真 左上
南稜ルートの中間あたりにある「トリコニー」と
呼ばれる存在感のある3つの岩峰を抜けて行く
雪稜を進める所まで詰めて行く
所々シュルンドが隠れており踏み抜きを警戒する
1P 藤本リード
柱状節理の壁
無雪期なら高さがあるのだろうが最奥部の
棚を慎重に数段乗り上げ、核心部は高さ3mほど
だがここが悪かった ...
気休め程度の支点を4ヵ所きめ
(ピナクル、極小ナッツ、極小カム)
※ 結果2ヵ所は外れた
カチに左前爪を乗せ、右足はぶら
バランシーな状態で両腕を目いっぱい伸ばし
アックスを岩間の泥に僅かにかけ身体を持ち
上げた
その後は ↓ の様に不細工な馬乗り状態になり
一安心
「焦ったよ~」その(1)
50m いっぱいまでロープを伸ばし灌木で
ピッチをきった
セカンドビレーのロープに度々テンションが
かかる
フォローの三浦さん、苦労してそう
南稜ルートでロープを出す所が少ないと思って
いたので、朝一から時間をかけ過ぎてしまった
※ ナッツを残置 山を汚して申し訳ありません
※ 残置支点なし
2P 藤本リード
ハイマツを踏み越え雪稜にすぐ出た
ここはフリーで良かった
「青 と 白」
対面のコブ尾根が美しい!
しばし雪稜を詰めて行く
けっこう斜度があり数歩で息があがる
ロープ (約2.5kg) 分の差は大きい
三浦さんに距離を開けられる
気付けば上高地はもう眼下に
霞沢岳と同じくらいの高さ
隣の雪稜へトラバース
ここも地味に悪い
三浦さんは小気味良く先に抜けた
1,2ヵ所のスタンスとホールドが見つからないと
気持ち悪い
だが分かれば安心
振り返れば奥明神沢
「スティーーープ」
昨日の雪質で良かった ...
「こんな所を滑れるか~!」
吊尾根は近くで見ると分からない
やっぱり河童橋からだわ
絶景がつづく!
穂高に包まれてる~!
堪らん!
明神岳も近くに
高度感が半端ない
だが「トリコニー」が見えてこない
微かに大雪庇の遥か上部に大岩峰が見えた
右も左も切れ落ちている
ルートはこの雪庇越えしかなさそう
3P 藤本リード
ハイマツでビレーしてもらい 0ピンをとる
その後はひたすらランナウト
壁は垂壁
先行パーティは雪が締まってる時に通過したのか
我々の時には昇温により雪はグサグサになって
いた
前爪を蹴り込んだステップも数回崩壊した
アックスも身体を持ち上げれるほど固くなく
ズズっとずれる
腕がパンプしてきて堪えきれず、気休めの
アックスにPASをかけレストする
落ちれば15mほど下の藪に突っ込み止まるで
あろうが怪我は免れない
時間はもうこれ以上かけてはいられない
アックスで僅かに雪質の固く感じるポイントを
探し両手両足に負荷を分散させ渾身の力で這い
上がった
「焦ったよ~」その(2)
雪庇の上を詰め「トリコニーI峰」取付の
ハイマツでビレー
4P 三浦リード
出だししか見えなかったが「やりますか?」と
聞くと「やりましょう!」と即答
さすが宇宙の方
スルスルとロープが伸びて行く
快調な感じ
フォローで登ったが
「いや~そんなに優しくはない」
きっと痺れたはず
ビレー地点に着くと良い顔をしてた
※ 残置支点なし
5P 藤本リード
初めは優しい階段状
中間部に凹角のスラブ
凹角のリスの泥をアックスで掻き出し極小ナッツ
とカム#0.3をきめ右前爪をカチに乗せ
アックスでじわっと身体を上げた
※ 残置支点なし
6P 三浦リード
顕著な「トリコニーI峰」の雄姿
チムニー手前でピッチをきる
※ 残置支点なし
※ 積雪期の南稜ルート上ではここが一番良い
適泊地になりそう
綺麗なスラブが敷き詰められた感じ
7P 藤本リード
チムニーに突入
板を歩荷して突破できなければ荷揚げが必要
ズリズリガリガリしながら奥へと入って行けた
数メートル進むと回廊は右へと直角に曲がる
「抜けた」と思ったがその先は切り立った崖
トレースもないし違う
廊下は全て垂壁の壁がそそり立っている
弱点など何もない ...
「灯台下暗し!」
コーナーの岩棚を数メートル登り反対側の岩に
乗り移ると言う事か!
?がった岩を登る事しか考えてなかった
記録に書いてた「螺旋階段」とはこの事か
納得して笑えた
右足を飛ばしバランスをとりながら対面の岩に
カム#1.0をきめアックスの先を岩に引掛け
勇気を出して身体を引っ張って乗り移った
その後も廊下が続いた
ルーファイミスをして
ロープが屈曲して流れなくなってきたので
ピッチをきった
※ 残置支点なし
8P 藤本リード
雪付きが薄くトレースがない
ルートが分かりづらい
塔状の巨大ピナクルの脇の凹角に残置スリングが
あったが悪そうだったので左側に回り込んだ
するとそこからI峰の頂上へ上がれるこましな
弱点があり這い上がった
そこからはリッジ上を抜けII峰との間のコルに
出てハイマツの根でピッチをきった
9P 三浦リード
コルの雪は少なく歩けるほど
記録によると雪が多ければロープを出して
トラバースするほどの難所
↓ 「トリコニーII峰」
雪稜を登り右側からII峰の上に乗り上げた
錆びた残置ハーケンでビレー
この時すでに時間は日没寸前の 18:30頃
ロープを畳み
夜に備え地獄装備を
後は雪稜を標高400mアップ程度と気軽に
考えていた
「ここまでも長かったけど、
ここからが一番長かった ...」
「日の出前」から「日の入」
そして夜に突入
夕焼けが綺麗
そして星空も綺麗
疲労困憊で思う様に標高をかせげない
雪稜はかなりの傾斜があり4足歩行
しかも雪稜だけではなかった
ワンミスで滑落するミックスの岩稜帯も続く
カムでセルフをとりながら通過して回収する
ロープを持ってもらってる先輩には時に
お助け紐を目いっぱい繋いで垂らす
暗くてルートファインディングも難しい
スキーブーツは重たく前傾角度の制限が少なく
登りづらい
雪稜では直登が難しくジグを切って登る為、
トレースを使えない所もある
スキー板も重たい
前かがみになればトップが雪面や岩にあたり
藪では引っかかる
真っすぐに立てばテールが足やギアにあたる
全て想定内で好きこのんでやってる事なので ...
しかし時間がかかる
22:10
抜けた!
南稜ノ頭 (3,140m)
最後の一口のホットレモンを飲みほす
ここからは一般登山道
23:00
奥穂高岳 (3,190m)
とりあえずパシャリ
やっぱいるでしょ
この頃から目が見えづらくなってきた
最近、超時間冷たい風雪に目をさらすと霧が
かかった様に近くの物しか見えなくなる
ヘッデンの灯りを頼りに足元に集中して下山
通常ならここから穂高岳山荘は夏道で30分
GPSではルート上に乗ってるがルートが
分からない
一瞬、間違い尾根に行きかける
際どいトレースを発見してその先は山荘へと
導かれる
5月4日 1:30
21時間行動
記録写真も、わやくちゃ
時間はかかったものの安全?に目標達成
自分達にしか分からない
小さいグータッチを交わす
(2,983m)
穂高岳山荘の表玄関を入った土間にあるベンチを
拝借して仮眠しようとするが、神経がまだ張り
つめてるのと極寒のせいでなかなか寝付けない
2時間ほどウトウトしてると身支度をする宿泊者
が起きてきた
いくら温かい物を食べて飲んでも身体が寒い
陽も登り外は明るくなってきた
早く涸沢ヒュッテに行きたいが風が強いのと雪の
緩みを待った
早く布団で寝たい!
3日目
計画では
涸沢ヒュッテ ~ 穂高岳山荘 ~ 涸沢槍 ~
涸沢槍コル ~ 滝谷D沢滑降 ~ D沢F沢出合 ~
F沢登り返し ~蒲田富士コル ~ 涸沢岳西尾根 ~
涸沢岳 ~ 涸沢槍コル ~ 涸沢ヒュッテ
この疲労でそんな事をでき様もない
11:00
いよいよ滑降
冬道を上がってくる登山者が大勢いる
人的雪崩を誘発させない様に我々は
ザイテングラートの北側の斜面を狙った
先輩がドロップしてスキーカットをした瞬間
湿雪雪崩が発生
雪を落とした後でもフォローは気持ちが悪い
滑降と言うよりはただただ重たい雪とデブリに
耐え太腿パンパンで落ちてきただけみたいな
それに対して先輩は攻めてて躍動感がある
格好良い!
あんな滑りに憧れるな
涸沢ヒュッテ (2,309m) 到着
これほど美味い
「800円の生ビール」はあるであろうか!?
都会の涸沢
夕食を挟み9時間爆睡
どれだけ回復させられるかリカバリーに時間を
最大限、費やした
4日目
0:30 起床
2:00 涸沢ヒュッテ (2,309m) 出発
計画では
涸沢ヒュッテ ~ 北穂高岳東稜 ~ 北穂高岳 ~
北穂高沢 滑降 ~ 涸沢ヒュッテ ~ 横尾 ~ 上高地
明るく穏やかな夜
無数のテントが張られたテン場はまだお休み中
標高を上げて行くと涸沢を囲む山々には我々以外に
2人いた
北穂を目指して前を行くソロイストと、
前穂北尾根5・6のコルを目指すソロイスト
灯りでお互いに無言のエールを送っている様
4:00 (2,820m) に乗り上げた
最後の詰めはかなりの斜度があった
辺りが白ずんできた
おはよう、槍
マジックアワー
「俺、イケてる?」(笑)
本来計画していた奥穂高岳直登ルンゼが見えた
あれはヤバそう!
よっぽど雪質が良くないと私には無理
北穂高岳東稜「ゴジラの背」到着
1P 藤本リード
取付手前のピナクルでビレー
登攀準備もここで可能
リッジの上にはトレースがあるが上がるのは
右のピナクルから乗り移る?
いや悪いでしょ!しかもキレット側の高度感が
半端ない
左側からに決定
良く見ると錆びた残置ハーケンがありカム#0.4
を足して乗り上げた
この先を先輩にリードして欲しかったので
見通しが良くロープの流れが良さそうな
ピナクルでピッチを切った
※ 残置支点あり
「爽快なクライミング!」
「気持ち良い~!」
2P 三浦リード
岩と雪のリッジを越えて行く
「北穂 と パイセン」
3P 藤本リード
雪稜のリッジを直進してクライムダウンも可能
そうだが気持ちが悪い
北面にトレースがあったので信じて辿った
初めは垂壁をアックスとアイゼンを効かせ降りた
フォローを考え2mほど降りたクラックにナッツ
で中間支点をとり核心部のドカ落ち対策をとった
4日間の集大成
「北穂高岳へのビクトリーロード」
あと標高100mアップ
パイセン、ひょっこり顔を出す
ついにやった~!
「槍」をバックにパシャリ
今日は時間的にお釣りがあった (笑)
「北穂高岳北峰」(3,106m) からドロップ
「岩間を滑降しよう」と勢いづいていたが
いざ頂上から覗き込んだら何も見えずすぐさま
NGマーク (笑)
お付き合い頂いて
結局、先輩は南峰との間のコルから
私はへっぽこなので200mほどクライムダウン
して登山者に影響がない所から滑降
この日も湿雪雪崩が多かった
「ゴジラの背」をバックに滑降
ひたすら落ちて行く
落ちて行く ...
振り返るとドーン!
本当にここを滑ったのか!
「北穂高スキー場、万歳」
コーラがうみゃい~
帰る道中、昨年登った屏風岩を眺め思いを馳せる
ただ先を急がねば
最終バスが
河童橋はまだ遠い
荷物が拷問の様に重い ...
「一周をした」
壮絶だったがもうすでに良い思い出に変わろうとしている
16:00 河童橋 着
先輩、お付き合いありがとうございました
「滝谷滑降」の宿題をまた回収しに来ましょうね!
最後に
あくまで個人的な主観と記憶で書き記しており
ますので、自己の責任において充分な計画をして
安全で楽しい山行をして下さい