Lone peak The Open Book アルパインクライミング

山行日
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山域、ルート
Lone peak The Open Book (5.7/6P)
活動内容
アルパインクライミング
メンバー
石橋(会友)・J(会外)

Lone peak The Open Book アルパインクライミングの山行記録

昨夏に単身渡米してはや一年が経とうとしています。
今僕はアメリカ中西部にあるユタ州で大学に通いながら、日々元気に山々を渡り歩いています。
果てない荒野が広がるイメージのあるユタ州ですが、実は3000mから4000mの山々がそびえる全米屈指の山岳県ならぬ山岳州であり、ロッククライミングからハイキング、ロングトレイルにBCまで、幅広いジャンルのアウトドアアクティビティが楽しめる場所なのです。

そんなこんなで山を楽しんできたこの一年、ずっと考えていた山の一つがLone peakのSummit wallでした。Lone peakはユタの州都・ソルトレイクシティの南東に位置する3,432mの山で、その山頂直下に今回のお目当てであるSummit wallが広がっています。この壁の他にもSouth Summit wallやQuestion Mark wallが存在し、下部から見上げると周囲を壁に囲まれた圧巻の光景を目にすることができます。トレイルランニングやバックパッキングでも人気を誇る山ですが、今回はクライミングでチャレンジをしてきましたので、以下山行記録です。

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今回山行を共にしたJとはFacebookを通して知り合った。アメリカには神戸山岳会のように地域密着型(?)の山岳会というものが存在しない。クライミングやバックパッキングはあくまでも個人でやるもの、という考え方なのかSNSを通してパートナーを見つけるのが主流だ。
“Lone peakをクライミングで登るパートナー募集“の投稿に返信をくれたJはお隣コロラドからラスベガスへ行く最中にユタでクライミングトリップを計画中、との事だった。そこから計画をああでもないこーでもない言いながらMessengerで立てて行くわけだが、その中で“リードは全て君に任せる“との一言。聞けばフリーはやるがアルパインルートは初めてで、カムやナッツは絶賛練習中だぜ!とのこと。少々不安だが元は初対面同士でザイルを組む予定なのだから今更言っても始まらない。もし本当にやばければ途中でもやめようと言い出す覚悟でOKの文字を打った。

初日はSummit wallの手前のキャンプ地までの長い長いトレイルを歩く。
9時に駐車場出発ね!という約束だったので8時半に駐車場へと向かうが、Jから少し遅れるとの連絡が入る。時間通りに行った試しがないのはこの国の常なのでこちらものんびり待つこと1時間。ニッサンのセダンに乗って笑顔で現れたJは挨拶を済ませるとものすごい勢いでザックにテントとシュラフを詰め込んでゆく。これまで数々の山屋が準備をしているところを見てきたが、ダイレクトにテントとシュラフを詰め込む人を見るのは後にも先にも彼だけだろう笑。持ってゆくギアを相談しながら簡単なサンドイッチ(本人曰く。僕は単なるジャムパンだと思うのだが。。。)をこしらえて、駐車場を出るころには10時に差し掛かろうとしていた。
アメリカのジリジリ照りつける太陽に焼かれながら、乾いたトレイルをどんどん歩いてゆく。

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お互いに登ってきた山の話や世間話をしていると時間が経つのが早いのは日本もアメリカも同じ。5時間ほど登るとキャンプ地へと到着した。 この時期ユタは夜9時ごろまで日があるので、余った時間は木陰でアメリカのでっかい蚊にたかられながら昼寝をしたり、ナキウサギを追いかけて遊んだり。8時ごろに夕食を各々取って早々に就寝。

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二日目は6時半にキャンプ地を発つ。岩がゴロゴロした谷を30分強進むと僕らが登るルートの取り付きへと辿り着く。生い茂る草木のないアプローチは見通しが良すぎて迷う余地もない。迷わぬことは良いことなのだが日本の山のアプローチ核心なんてのも今思えば楽しいもんだなあ、なんて思いつつせっせと登攀準備に取り掛かる。

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登攀開始7時30分。1ピッチ目はⅢ級の易しいガリーで、2ピッチ目は5.7のフェイスルート。事前の調べではここを繋げて登ったというコメントが多かったので相方と相談して2ピッチ繋げることにした。特に難しい場面もなかったが、予想に反してビレイポイントまでが遠い。相方が持ってきてくれた無線を使って残りのロープ長を何度も確認しながら登ってゆく。ロープ無し!の無線が入った時、ちょうどビレイポイントの小さな小さなテラスに立っていた時にはホッと一安心。にしても70mフルで伸ばすとシングルとはいえ重たかった(汗)。
だが問題はここから。アンカー構築のためのクラックがなんとも細い。。。C4の1番以上の大きさなら安心なのだが入るのはせいぜい0.5。。。仕方がないのでアンカーの荷重分担を考えつつ取れるプロテクションをありったけセットしてゆく。上にも下にも情報にあったようなテラスは今自分が立っている場所のみ。間違えているわけではないと思うのだが。。。この山行中最もいろいろ考えたビレイポイントだった。

3ピッチ目は5.7のチムニーを登る。チムニーとはいうものの、実際にはホールドもスタンスも豊富なのでどちらかといえばフェイスクライミングをしているようだった。このピッチのビレイポイントは広いテラスで明確だ!と情報には書いてあったので頭に入れて登ってゆくと、目の前に一本のハーケンが現れた。 あれ???と嫌な予感がする。このルートの初めから終わりまでの間に残置されているプロテクションは古いハーケンが二つのみ、それも4ピッチ目にあるはずなのだ。明確なテラス、とばかり思ってしまっていたがために本当のビレイポイントをすっぽかしてしまっていたのだ。しかし登ってしまったものは仕方がない。古いハーケンをありがたく使わせてもらって急遽そこにアンカー作ってピッチを切ることにした。登ってきた相方にミスった!と言うと満面の笑みでDon't worry! の一言。心強い。

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4ピッチ目は同じく5.7のクラック。平行に走る2本のクラックをうまい具合に使って登ってゆく。ここまでくるとかなりの高さがあり、振り向くと大パノラマが広がる。眼下にはこれまで歩いてきたトレイルがずっと下の街まで続いていた。ナキウサギの鳴き声が響き渡る谷に太陽の光が差し込んで本当に美しい。このピッチがこのルートの核心だが難なくクリアして上部のテラスまで駆け抜ける。

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テラスは広く快適でプロテクションも十分に取ってアンカーが構築できた。ここでしばらくお昼休憩。

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5ピッチ目はクラックとフェイスの入り混じる壁を登ってルーフを右に抜ける5.7のピッチ。下から見ると手強そうだがホールドがしっかりしていて快適に登れる。残置は前のピッチにある2本だけと聞いていたが、ルーフに下にも一本残置ハーケンが入っていたのでありがたく使わせてもらう。

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ラストのピッチはロープを出すパーティもいるようだがトポでは5.0との表記。実際ロープは必要ない簡単なピッチ。距離も短く、2人で歩いて抜ける。登り切るとそこは尖ったLone peakの頂上だ。

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登頂2時30分。お昼休憩の残りのJお手製サンドイッチを頬張りながら、下山準備。

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下山はノーマルルートの稜線からの予定だったが、別ルートを登ってきたパーティによればQuestion Mark Wallの中腹(そのパーティはBase of the Question Markと言っていたが、位置的には中腹。おそらく解釈の違い)から懸垂で降りた方が早いと聞いて予定変更。本来は2ピッチ70mの懸垂だが、2パーティーそれぞれのシングル合わせて一回で下りることができた。声をかけていただいたことに感謝である。

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キャンプを撤収して長い長い下りを降りる道中も振り返っては離れてゆくLone peakを眺めて余韻に浸る。登りきった山は登る前よりキレイに見える、とかつてこの山に登ったクライマーが言っていた。ほんとにその通りなのだ。また登りに来よう。

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駐車場に戻ったのは夜の8時。クタクタになったが本当に充実感あふれる山行になった。最後にJから「本当に素晴らしいアルパインクライミングだった。一生忘れないぜ!」と言われた時には涙がこぼれそうになってしまった。もちろん自分もこのクライミングとJを忘れることはないだろう。

会友の身にもかかわらず、この山行せっかくだから記録に残してみたら!と提案くださった我が会の委員長に感謝申し上げて、以上を山行記録とさせていただきます!笑
この記録が誰かの役に立つのかは不明ですが、気になった方はぜひユタ州に足をお運びください。いつでもお待ちしております!

※写真掲載はJさんに承諾いただいています。