錫杖岳 3ルンゼ 厳冬期アルパインアイスクライミング

山行日
-
山域、ルート
錫杖岳 3ルンゼ
活動内容
アルパインアイスクライミング
メンバー
谷川、岩瀬た
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こんにちは、岩瀬た です。
今週は谷川くんと錫杖岳に行ってきました。
1日目は3ルンゼ、2日目は他のルートを偵察。

錫杖岳は、横山ジャンボさんの「アルパインクライミング考」にも紹介されていて、この本は僕のフェイバリットでもあるので、その舞台にやってきたと思うと心の底からワクワクしてしまう。

1日目の3ルンゼは、初めてのチリ雪崩を受けまくりながら、谷川くんが難しいピッチを全部こなした。(僕にも残しといて欲しかったなあ!!笑)
2日目の偵察では、昇温甚だしい中で欲を出して冬の"注文の多い料理店"を見てみようと取り付きまで行った結果、雪崩に飲まれてしまいました。
60mほど流されましたが運良く2人とも無事で、反省すると共に、結果的には、良い経験となりました。

以下、山行記録です。

錫杖岳 3ルンゼ 厳冬期アルパインアイスクライミングの山行記録

装備

  • 50mロープ x2
  • スクリュー
  • カム #0.5~#3
  • その他

行程概要

2/4
4:00 中尾高原口バス停駐車場 出発
6:10 クリヤの岩舎
6:40 1550m地点 テント設営・ギア準備
7:40 出発
8:30 3ルンゼ入口
12:30 3ルンゼトップアウト~グラスホッパー上部氷柱基部へ
13:30グラスホッパー上部氷柱基部 下降開始
15:00 3ルンゼ入口
15:15 テント場 泊

2/5

5:00 起床
7:30 偵察出発
8:10 1ルンゼ取り付き
9:10 注文の多い料理店 取り付き 雪崩
9:30 折り返し開始
9:50 テント場 休憩 安否確認出発
10:30 1ルンゼ取り付き 安否確認
11:20テント場 撤収 下山開始
12:30 中尾高原口駐車場

行程詳細

2/4

レンタカーを走らせて一路、錫杖へ。
中尾高原口バス停の駐車地で少し仮眠して4:00出発。

クリヤ谷にはしっかりとトレースがついていた。
錫杖沢の岩小屋に泊まるつもりだったけど、ラッセルに難儀しそうな気がしたので前衛峰手前の傾斜の緩いところにテントを張ることにして樹林帯のラッセル開始。

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ラッセルラッセル。思いの外沈まない。

今シーズンよく行った八ヶ岳に比べて当たり前だが雪質や雰囲気が全然違い、あ、なんか山だな。という気分で進む。少し湿って重みのある雪だ。
僕は真冬の北アルプスに来るのは今回が初めてで、経験の少なさを感じる。

1550m地点の良い場所にテントを立てて、7:30、曇った朝にドーンと佇む前衛峰に感動しながら3ルンゼ取り付きに向けて出発。

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ラッセルラッセル

8:30ごろに取り付きについて、一息ついた後、ルートに入る。

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3ルンゼ入口

良い具合に雪がついていたのでしばらくはフリーで進み、最初のチョックストーンのところからロープを出す。

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ここはフリーで上がる

1ピッチ目、谷川リード。

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1ピッチ目谷川。どこにいるのかよくわからないが、チリ雪崩の中だ。

チョックストーン部分で結構モジモジしつつ、チリ雪崩の中を乗越していく。
フォローで登ると、ビレイしながら見てた感じよりも悪くて、ベルグラを使いつつジャミングも交えながら思いっきりA0して登ることになった。おぉ谷川くんナイスリードと思う。
チリ雪崩も頻発。ここ以降チョックストーンの乗越しがあるたびにチリ雪がグルグル渦巻いてる中を登ることになる。
落ちてきたチリ雪崩が巻き上げられてゆらゆら揺れる光景はなんとも不思議だ。なんだか少し夢のよう。

2ピッチ目、岩瀬たリード。
いくつか見た記録の中でも印象的な、トンネルくぐりのアトラクション的なピッチ。
出だしは思いの外足場が崩れて難儀したが、立体的で楽しいピッチだった。
背中を壁に当て、氷にアイゼンを当て、おすわりステミングで抜ける。
プロテクションはカムで良い感じにとれた。(ダイさんとヨッシーさんの記録にも書いてあった#3のカムがよく効きました!)
トンネルを抜けて少しラッセルし、洞窟のようになってるところでピッチを切る。風もなく暖かい良い場所だ!

3ピッチ目、谷川リード
これまたチョックストーンをベルグラ登りだが、岩の隙間に氷が良い感じに張っていて割と安心して支点を取りながら登る。

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うーんカッコいい!

チョックストーンを乗越してもなかなかビレイ解除のコールがかからず、なにしてるのかなぁと思いながら洞窟の中で待つ。結構ロープが出て行く。
50mいっぱい伸ばしたところでビレイ解除のコール。
フォローしてみると、ベルグラ登りは案外足場があってスッと行けたが、そのあとしばしのラッセルをはさんでもう一つチョックストーンの乗越しがあって、谷川くんどうやらそこも続けて抜けて行ったよう。
2つ目のチョックストーンは、左に残置支点がいっぱい打ってあり、思わずそこを登りそうなものだけれど、ロープは右を乗越して行っている。
結構被った乗越しで、僕がリードならここでいったんピッチ切ってるなと思い、谷川くんやるなぁと思う。
取りついてみると、これまた案外良いスタンスがあって見た目よりも悪く無かったが、ひょいと体を上げると、抜け口で渦巻くチリ雪崩に襲われる。
「うわ!アバババババ!!見えない!!アババ!ちょっと!やばいってこれ!!全然見えない!!アババ!!」となる。ゴーグルをつけてないことを深く後悔。
チリ雪崩が一度落ちてきては巻き上がって渦巻き溺れてしまいそうな中、被っているので簡単には降りることもままならず、必死のパッチでのっこす。
いやこれリード結構キツかったんちゃうか!?と思いながら登って谷川くんと合流。
そこはもう3ルンゼのコルだった。難しいところのリードは全部谷川くんに持っていかれた!!やられたー!!
でもナイスリード!

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アバババの後。

グラスホッパーも見てみようと言うことで少し登って見てみたが下まで繋がっておらず、時間もまぁ降りても良いかという時間だったので氷はまた今度ということにして同ルート下降に移る。

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グラスホッパーはまた今度

15:00、4回の懸垂下降で取り付きへ。結構スムーズに降りてこられた。(下降でもアババババは避けられなかった。)

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下降開始
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下降

テントに戻って待ってましたののんびりタイム。
あまーいミルクティーのウィスキー割を片手に、「腹減った。。。」といつも呟いている谷川くんの作る具沢山キムチ鍋2回転+雑炊でお腹をパンパンに満たして、今日の3ルンゼのことや少し深掘りな各々のことなど話して、パタパタとテントを打つ雪の音を聞きながらあたたかな眠りにつきました。

2/5

今日はレンタカーを返す都合もあり、いくつかのルートの偵察だけして早め下山のため、のんびり朝ごはんを食べて7:30出発。昨日は曇っていたが今日は雲ひとつない素晴らしい快晴だ!

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高級テントカミナドーム

ひとまず2ルンゼと1ルンゼを見に行くことにする。
昨晩は雪が降っていたので夜のうちにトレース埋まっちゃってるかなと思ったが、すでに何パーティか登りに来ているようでトレースはしっかり残っていた。すぐに前衛峰基部に着く。
3ルンゼの入口から基部沿いにラッセルしつつブラブラ。

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左下からが2ルンゼ、右が3ルンゼ

極悪非道な2ルンゼを見上げて、いつか行かなくちゃなぁと話しながら、輝く氷柱の1ルンゼへ。

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1ルンゼ

1ルンゼの1ピッチ目は氷があるにはあるが薄い。
取り付き凹角の左側の壁をちょうど登り始めたパーティがいて、挨拶しつつ少し見学。

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1ルンゼ取り付き

ジッと見てるのも変なので、さらに左に向かって進む。

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P2が空を突く

左方カンテの取り付きこのあたりかなぁと以前に夏に来たときのことなど思い出して、せっかくなら注文の多い料理店も見たいと思い、さらに左へ。時間はちょうど9時ごろ。
気持ち良く開けた北沢を、ジブリのもののけ姫に出てくるコダマのような小雪が時おりツーっと転がり落ちて行く中、膝高のラッセルで詰めていく。

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注文の取り付きへ。この後、雪崩に飲み込まれる。

雪が眩しくて日焼けも気になる(僕は結構日焼けに弱くて、あんまりやけると熱が出る)のでゴーグルとバラクラバでしっかりガードして登り、ようやく注文の多い料理店の取り付きに到着。
冬のこの壁を見ることができたと嬉しい気持ちでラインを眺めていると、視界の奥、北沢大滝に灰色の煙が舞うのが見えた。

一瞬、ただのチリ雪崩だろうと思ったが、煙の中に大きめの雪がゴロっと顔を覗かせて、ようやく何が起こってるか把握。距離は200mといったところか。

「雪崩れ!やばいやばい!」
とすぐ後ろにいた谷川くんに叫んで、どうしたら良いかわからないけどとりあえず壁に近寄ろうとするも、2、3歩動いたところで壁に向かってもとうてい間に合わないし意味がないことを悟り、どうしようもないが雪崩れに正対して身構える。
飲み込まれる瞬間、「終わったな。」と思った。

1発ドンと突き飛ばされ、前のめりに雪の中をグルングルンと回転し始める。
1回転目は「このまま埋まっちゃうかな。」と他人事のように思う。
2回転目は「案外視界が明るいな。バタつく方が良いのかな。」
3回転目で「なんかまだ埋まってないな。これワンチャン助かるかも。っていうか岩とかにぶつかって身体折れたら嫌だなぁ。」
4回転目で「どうにかして体制を立て直したいな。」
と思いながらもう半回転したら流れの外に吐き出された。
立ち上がって、自分が今どこにいるのか、谷川くんはどこにいるのか若干テンパっていると、
「大丈夫ですかー!!」
と谷川くんの声が聞こえ、どこから聞こえてきたのかわからないままにとりあえず
「大丈夫!!」と叫ぶ。
ぐるっと見回すと僕から20mほど下に真っ白になった谷川くんが立ち上がっていた。
無事だ。良かった。

とりあえず安全なところに移動して、びっくりからの笑いが出てきてお互い無事でギアも無くしてないことを確認。お湯など飲んで一息つく。

雪崩に気づいてから飲まれるまで5秒、流されてたのは15秒くらいだろう。
僕で60mくらい、谷川くんで80mくらい流された。
規模もそんなに大きく無かったからか運良く雪崩の末端に辿り着いてことなきを得たといったところだ。
ゴーグルとバラクラバをしていたからか、流されながらも視界も呼吸もひとまず確保されていて割とよく覚えている。
無事で何よりだ。

一息つくとちょうど偵察折り返しの時間だったので、下山に取り掛かる。

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樹林帯に逃げ込んで一息。

1ルンゼを登ってるパーティのビレイヤーに「大丈夫でした?」と聞かれたりして、いやぁヤバかったです。などと答えながら、すごすごとテントに戻る。

テントで一服しながら片付けをしていると、にわかにカミナリのようなバリンバリンという音が響き、前衛峰を見上げると1ルンゼの上部が真っ白な雪煙を上げて崩壊していった。
谷川くんと顔を見合わせて、唖然として崩壊を眺めていたが、さっきの1ルンゼのパーティやばいんじゃないのということで急いで準備して安否確認に向かう。
谷川くん早い早い。全然追いつけなくて情けない気持ちになりながら、いろんなケースを想像しながら登り返す。あれ持ってないな。これ持ってないな。と、なにが代替え品になるか考えながらちょうど30分くらいでようやく1ルンゼ基部にたどり着いたら、懸垂下降で撤退してくるクライマーの姿が見えて、怪我がないか聞いたら大丈夫とのことだったのでホッと胸をなでおろしてまたテントに戻りました。
テントに着いたらまた何回も1ルンゼがバッカンバッカンと音を立てて崩れていく。
まぁさすがにさっきのパーティももう大丈夫だろうということで見にいったりはせず。

11:30、テントを片づけて、元来た道を歩く。
12:30、駐車場に到着。

下山完了。


以上、山行報告でした。

結果的に、すごく勉強になった今回の山行でした。
思い返しながら記録を書きましたが、当たり前の雪崩インシデントの兆候がいくつもあって、反省です。
谷川くんと、これは今後にちゃんと活かさなとねと話しました。

とはいえ、錫杖岳は魅力に溢れた山だったというのも正直なところです。
3ルンゼは正直結構甘く見ていたけどピリッとするところもあって、「アルパインはこれだな!」と思える場所だったし、下から眺めたいくつものラインはどれもカッコよくて、どれも登ってみたい。今回流された北沢だってもちろん詰めてみたい。
今シーズン続け様に八ヶ岳に行ったように、次からは錫杖岳でもいろんな経験をしてみたいと素直に思える良い山でした。

良くも悪くも貴重な体験ができたと思います。
なにごとも、進むも一手、引くも一手だ。正解は無くとも間違いを踏まないようにしないとな。

谷川くんありがとうございました!