鹿島槍ヶ岳 北壁 主稜 冬期アルパインクライミング

山行日
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山域、ルート
鹿島槍ヶ岳 北壁 主稜
活動内容
冬期アルパインクライミング
メンバー
長谷川、岩瀬た
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こんにちは、岩瀬たです。
この冬は、「いつか行ってみたいな。」と思っていた場所に行けている。
奥三ノ沢、摩利支天大滝、阿弥陀北西稜、中山尾根、錫杖岳、米子不動、中千丈沢、などなど、、、
有名どころばかりで、どれも良い場所ばかりだった。そして印象深い山行ばかりだった。

今回行った鹿島槍ヶ岳の北壁もいつか行きたいと思いながら、怖くてなかなか行けなかった場所だ。昨年計画を立てたものの天候不良で転戦となり、雨降る大峰の深仙小屋で「残念だなぁ。」と言いながらも少しホッとしていたことをよく覚えている。

以下、山行記録です。

鹿島槍ヶ岳 北壁 主稜 冬期アルパインクライミングの山行記録

装備

  • 60mシングルロープ
  • スノーバー x4(3本あれば充分だったかな?)
  • スクリュー x6
  • ハーケン x3(使わず)

行程概要

3/19 晴れ

7:15 大谷原駐車場 出発
9:30 荒沢出合 尾根に向けて取り付く
15:00 天狗の鼻 テント設営、偵察、泊

3/20 晴れ

3:00 起床
4:15 出発
4:40 カクネ里
6:15 主稜取付、準備
6:50 1ピッチ目スタート
7:30 2ピッチ目、3ピッチ目
8:00 4ピッチ目アイス
9:30 5ピッチ目ベルグラ
10:30 コンテで登る
15:30 主稜線トップアウト、休憩
16:30 天狗の頭
18:15 テント場 泊

3/21 晴れ

4:00 起床
6:30 下山開始
10:00 荒沢出合
12:00 駐車場

行程詳細

3/19

元々は18日から入山予定だったけれど、悪天のために1日ずらして19日入山。連休万歳!
大谷原から3回の渡渉を経て天狗の鼻に向けて登り始める。
第一、第二クーロワールは雪もしっかりついて特に問題無く通過。先行パーティがいてトレースがあって楽だった。(とはいえバテた。)

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荒沢の渡渉
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天狗の鼻まであともう少し

天狗の鼻に着き、しばしベースの良い場所を探して、先行パーティ(18日から入山してたらしい。大雪だったに違いない。タフ。)に挨拶とお礼を言って整地作業。
さあ整地だ!とスノーソーとスコップを握るが、僕は頭が痛くて全然動けなかった。
たかだか2300mくらいだけれど、僕は極端に高所に弱く、おそらく登り中にあまり水分を取らないのが原因なのだが、2000mを越える山の入山日はだいたいいつもベースを張るタイミングで気が抜けるのか調子が悪くなる。食べて眠れば治るのだけれど。
ブロック壁作りに精を出す長谷川くんに甘えて僕は湯を沸かしたり頭痛薬を飲んだりしつつゆっくり過ごす。結局テント設営まで全て長谷川くんがやってくれた。情けないが、心底ありがたい。
テントで少し休むと頭痛も治まってきたので、カクネ里への降り口を見に行く。
北壁へのアプローチは最低コルからのトラバースをする記録が多いが、昨年長谷川くんが1人で偵察に来てくれていて、カクネ里アプローチの方が良いと思うと結論を出したので今回はそれに従うことにした。
昨日の降雪後、今日のうちにあらかた雪が落ちていて欲しいと願っていたが、デブリも無いしたいして落ちているようには見えない。明日大丈夫だろうか。

テントに戻り、ご飯を食べて、予定より出発を1時間早めることにして、明日の準備を済ませて就寝。

3/20

3:00起床。
1時間以内に出発を目指していたが、結局4:15出発。
お互い距離をとってカクネ里へ降りる。ヘッデンに照らされた薄い表層雪崩の跡がちらほら見える。

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沢床近くまで降り、緊張しながら北壁に向けて雪渓をラッセル。深いところで膝くらい。


余談だが、カクネ里は2018年に氷河認定されたらしい。
日本の氷河は全部で6つ。長野県ではカクネ里が初の氷河だ。
長さ約790m、幅280m、1番厚い部分で表面の雪約15m下に厚さ30m以上の氷があるとのこと。1年で2.6m動いているらしい。
J-stageに論文が出ているので興味がある人は是非一読を薦める。調査過程が楽しい。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oam/3/0/3_5/_pdf
さらに余談だが、このJ-stageというサイトはあらゆる論文や考察の記事があっておもしろい。
ちょこちょこ見てみよう。


少しずつ明るくなってきて北壁の形がぼんやり見える頃合い、谷の中でヘッドライトが動いているのが見えた。信じられないことに、カクネ里で夜を明かした人がいたようだ。スキーヤーだった。北壁の左岸側の小さな尾根に泊まれる場所があるらしい。

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取り付きまであともう少し。明るくなってきた。
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カクネ里
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蝶型岩壁と氷のリボン

6:15、主稜取付のスノーコルに到着。
改めて準備をして登攀開始!

1ピッチ目は僕がいかせてもらう。
スノーコルから壁に向かって右側の、灌木が顔を覗かせているところをズボズボになりながら枝を掴んで登る。結構すぐにロープいっぱいになってしまったので細い木でビレイ。

2ピッチ目は長谷川くんが行く。
ハイマツをこいでから雪面に乗り、少し傾斜が緩まったところでスノーバーでピッチを切る。
その次のピッチは尾根に乗り上げるかルンゼの滝に向かうか選べ、長谷川くんが水など飲んでるうちに3ピッチ目というかなんというか、僕が先に行かせてもらう。
尾根に乗り上げるには少々立っていてなんとなく難しそうだと思うのと、元々ルンゼの滝を登るつもりだったのでルンゼへロープを伸ばす。滝手前の側壁沿いでビレイすることにする。ハーケンでビレイ点を作りたかったがなかなか刺さらないので結局スノーバーでビレイ点とした。

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滝の手前

4ピッチ目、滝は長谷川くんにトライしてもらう。
ギアの受け渡しなどしている間に雪や石が滝上からビュンと落ちてくる。いやな感じだ。
さぁスタート。
10mあるかどうかという小ささだが、あとで聞く話では長谷川くんはどうやら結構緊張していたらしい。
滝に取り付くまで結構モジモジしてどこから登るか悩んでいることがうかがえる。
右側から取り付くも、どうにも悪いようで結局最終的に交代。

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長谷川くんのトライ

ビレイ点に戻ってきてもらい、次は僕が行く。
見た目に反してなるほど悪いと言った感じだ。
氷が微妙に下の方は崩れていて、形としてはハングみたいな形になってしまう。
おまけに氷はもろく、スクリューを打っても周りごと壊れて打ち直しということが何回か。チリ雪崩も頻発でベチャベチャになり、アックステンションを交えながらどうにか登り切る。思いの外大変だった。
滝を登ったところにある残置スリングが棒みたいになった物とスノーバーで支点を作って長谷川くんを迎える。

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フォロー長谷川

5ピッチ目、これも僕が行かせてもらう。
見るからに支点が取れなさそうなベルグラの草付きだ。
取り付いてみると、スクリューは奥まで刺さらないがアックスはよく効くので、氷を選んで慎重に登ればそれほど緊張せず登ることができた。
ロープいっぱい登って灌木を掘り起こしてビレイ。

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5ピッチ目

そこからは同時登攀に切り替えて進む。少し立ってるなと思う部分の後ではタイブロックを間に挟んだりして、本番で使うのは初めてだったのでなかなか良い経験になった。
核心のクライミングパートが終わったとは言え、天気が良く、上部がどうなってるかわからないし見えないきのこ雪や雪庇の崩壊が怖いので僕は尾根地形を行こうと言うが、長谷川くんは尾根地形は登りづらそうだしルンゼの方が早く進みやすいのでルンゼ地形を行こうとしたりして何度か意見が食い違う。適当に先頭を交代しながら進む。
結果的にはキノコ雪はほぼ無かったし崩れてきそうな雪庇も無く、ルンゼを進んだところは進みやすかった。
主稜と名付けられてるところに来てるわけだし尾根登ったらええやんと思ってたけど、ルンゼで正解といったところだ。

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天気良し!良過ぎる!
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天気良し!
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気持ち良い
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最後はハイマツ漕ぎ。雪少ないんだと思う。

15:30、ようやく主稜線に到着。風は強く無く太陽は眩しく照り付けて暖かい。
いやぁ登れるもんなんだなぁとホッとした。
遠望したり写真で見ていた北壁はぶったっているように見えていたし、憧れでもあったので感慨深い。
長谷川くんと握手して、記念撮影などしつつしばしゆっくり休憩してから天狗尾根を下降。

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天狗尾根下降。懸垂は2回。
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天狗尾根からの北壁。

18時過ぎにテント場に到着。疲れたー!アンドお腹ペコペコだ!
長谷川くんにいたってはお腹ぺこぺ過ぎて気持ち悪いらしい。僕は意外に元気で、昨日とちょうど逆な感じだ。
カレーを食べて、就寝。お疲れさまー!

3/21

4時に起きて片付けなどして6:30出発。

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北壁と長谷川くん。

荒沢に降り立つところがいまいちわからず懸垂下降などしてそこだけ少し大変だった。そして暑い。
川沿いを駐車地まで歩き、12:00、駐車地に到着。

下山完了!


以上、山行記録でした。

やってみたかったことを終えて、昼日中の青空の下をブイーンと爽快に帰る途中に聞いたブルーハーツの夢がなかなか良かった。

おれには夢がある。毎晩育ててる。
おれには夢がある。時々ビビってる。
建前でも本音でも本気でも嘘っぱちでも、
限られた時間の中で、借り物の時間の中で、
本物の夢を見るんだ。

良い歌詞だなぁとなんか改めて思う。
いつか死ぬその日まで、本物の夢を見続けたいものです。