劔岳 チンネ左稜線 アルパインクライミング
- 山行日
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- 山域、ルート
- 劔岳 チンネ左稜線
- 活動内容
- アルパインクライミング
- メンバー
- 石橋(記録)、N野
9月半ばにしてなおも続く夏空にうんざりする。
8月に予定していたチンネ左稜線だが、迷走した台風7号の直撃を受けて延期になった。
9月にもなれば気持ち程度にも涼しくなってくれることを期待したのだが、剱岳に向かう車中からは西日で真っ赤に燃えた積乱雲が至る所に居座っているのが見えた。
劔岳 チンネ左稜線 アルパインクライミングの山行記録
N野さんおススメ金沢のホワイト餃子で力をつけて、日付が変わる頃に馬場島の駐車場着。
少し仮眠を取った後、3時半発でまずは早月の小屋を目指す。午後から風向きによっては夕立が来るかもしれないこと、熱中症になりそうなぐらい秋の欠片も感じられないことから夜明け前の出発にはやめたのだが、それでも汗が止まらない。今回は軽量化をテーマに38Lザックに全てを詰め込んだわけだが、それでも早月の急登には思わず弱音が漏れ出す。
8時半、早月小屋着。
キンキンに冷えたコーラで福井名物焼き鯖寿司を腹に入れる。
もう高くまで昇ってしまった陽にサンサンと照らされた早月尾根の上部が高く高く聳え立つのを見て、ベンチを立つ気が全く起きない。
早月小屋を出ると視界が開けてくる。カメラを取り出すことが増えて、似たような写真だけがフォルダーに溜まっていく。ペースはぐんと落ちた。
13時半、山頂着。ULの登山者の皆さんが記念撮影を楽しんでいる賑やかな劔岳のてっぺんで、男2人ザックもおろさぬまま倒れ込んだ。残暑の残る中での早月アプローチは封印ルートである。
初めて北方稜線に足を踏み入れた。
地形図と照らし合わせてピークとコルを照合していく。劔の地形図は分かりづらいほど等高線が密集しているが、実際照らし合わせるとかなり地形が整理できた。今後の山行計画を立てる上で地形を把握できたのは大きい収穫だった。
山頂から150mほど下ったコルで幕営する。
一張が限界の小さなテントサイトだったが、途中早月尾根を下る蔵人と思しき男性のアドバイスでここを泊地とした。左稜線の取り付きまでは少し距離のあるものの、翌日は昼前から確実に雨予報なので雨の中池ノ谷ガリーと北方稜線を登り返すことを考えれば山頂に一番近いコルの選択は良かったと思う。
予報では気象庁の850hPa気温・風予想/700hPa上昇流予想図、500hPa気温/700hPa湿数予想図、及び地上天気予想図を用いた。
14日21時(JST)では華北から日本海北部にかけて気圧の谷(赤線部)があり、谷の後面にあたる北陸地方では顕著な上昇流は見られなかった。雲は発生するものの発達はしにくい状況であり、14日の夕日はとても美しかった。一方風向は14日昼過ぎの時点では南東風だったが夕方には南の風になり、21時では南西風に変化した。
15日9時にかけて華北から新たな気圧の谷(青線部)が接近して、風向は西風に変化し次第に暖湿移流(青斜線部)が見られ上昇流の極値(赤斜線部)が予想されていた。このことから翌15日は朝?昼前にかけて雨が降り出すと予想した。
雨が降り出す前にトップアウトするにはまだ夜も明けぬうちから取り付くしかないだろう。
深夜1時に幕営地発、ということが決定したので早々にシュラフへ潜り込む。時折強い風がテントを揺らすものの、静かな夜だった。嵐の前の静けさというやつだろうか。
14日23時半、 嫌な予感で目が覚める。雨がテントを叩く音だ。
予想よりも早く雨が降り始めていた。初めは気にならないほどの小雨だったが、すぐにテントも岩も全て濡れてしまった。 これでは行っても取り付くのは難しいだろう。
わずかに入る電波で雨雲レーダーを確認すると風上に連立する積乱雲が解析されていた。一時間も立たずに雨脚は強まるだろう。本降りになる前に、できるだけ下りておくのが得策だとして日付を跨いだ15日1時に下山を開始。結局ただただ重たい荷物を背負って2000mを登り降りをしただけになってしまったが、少しは体力錬成になったと思えば悪い気はしない。
山頂直下の岩場を越えると雨はいよいよ本降りとなった。
冷たい突風を伴って強まる雨脚に内心少し焦りが出る。そんな中でも山頂へ向かって登るパーティーと何度かすれ違った。
早月小屋まで降る頃には周囲は少し明るくなり樹林帯では雨に濡れることも無くなったが、 早月尾根の長い下りは着実に足にダメージを与えてゆく。やはりクライミングの装備を持ってこの尾根を夏に上がるのは個人的になしだ。
10時半、馬場島着。本当に疲れた。
車に乗って富山市街へ走り出すと、街でも雨が降り始めた。
神戸へ向かう頃には道路が川のようになり、前が見えないほどの驟雨となった。
予報は合っていた。地上ならば。
今回のケースでは地上で雨が降り出した時間は午前11時ごろだったため、山ではその12時間前に天気が前もって変化した。
一概には言えないが、山の予報ならば天気の変化は地上よりも数時間から24時間程度まで早くなるように予想するといいのかもしれない。
左稜線に登れなかったのは残念だが、学びの多い山行となった。
一緒していただいたN野さんありがとうございました!