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北アルプス 天狗尾根-奥穂高岳      1997.3.19〜3.22 三瓶 修

3/19 きたぐに-富山
 いつもの様に1人北国に乗り込むはずだったが、なぜか青谷さんがいた。小林さんたちは早くに車で向かったということだ。米原からは山田君が乗ってくるらしい。1人の夜行列車はもうひとつ熟睡できないのだが、お陰様でいつもよりはゆっくり眠れた。

3/20 晴れ
 富山-新穂高温泉(8:45)-白出沢出合(10:30)-conta.2494の先(15:30)C1

 富山で車で来ていた小林さんPartyと一旦合流。当初は最近には珍しく大きなPartyだったが、堀田さんが指の骨折で抜け、松尾さんが家の都合で抜けて、結局5人のPartyとなっている。最初のPartyでは少し無理があるかと思っていたがちょうどいいサイズに収まっている。もっとも構成上のバランスはいいとは言えないのだが。
 車で新穂高に向かう小林さんPartyと別れて1人電車で新穂高に向かう。神岡鉄道では顔を覚えてしまった地元の人が何人か乗って来た。ここのところよく通っていると思う。
 しばらくまとまった雪が降っていない様子で、林道はきれいにトレースが残っている。快調に飛ばして白出沢の出合に到着する。今年はまだ雪が落ち切っていないようだ。昨年南岳に登りに来たときにはすさまじいデブリになっていたのだが。
よく晴れていて稜線が見渡せる。当初考えていた飛騨尾根付近の様子もよくわかる。小屋の横から左岸の尾根に乗り天狗尾根を目指す。西穂沢側に入れば楽に歩けそうだが気温も高く上部には小さなデブリの跡も見えて気持ちが悪いので、木の間を縫って行く。

 天狗尾根末端は比較的急でBushも多い。西穂沢寄りのところから取り付いてBushをつかんで登って行く。日陰の雪は堅くしまっていて、eisenなしではちょっとしんどい。所々露岩が出ていてそれを右に左に交わしながら進むが、尾根が広くBushで見通しが効かないので、適当に進んでいると思わぬ所で行き詰まったりしてしまう。今のところラッセルがないぶんだいぶ増しだがこれから気温が上がって来たらさらにしんどくなるだろう。単調な急登をひたすら続けるうちに、樹林も低くなり雪もだいぶ腐り始める。今年は暖かかったせいか雪が少なくラッセルはないが、Bushまで踏み抜いてしまう。この落とし穴がなかなか泣けてくる。変な格好で落ち込むと自分1人では脱出できないのではないかという気がしてくる。木の上にeisenを乗せるようにして登る。

 ようやく少し傾斜が緩くなったころ、稜線に小林さんPartyが確認できた。樹林体の中だったので向こうからはこちらの姿を確認することはできないだろうが、思い切り長いコールをかける。コールが帰ってくる。気持ちがいい。
広かった尾根も樹林が切れるころから急激に細くなり、上部雪面と下部の尾根とをつなぐ部分が両側の切れたナイフエッジとなっている。中途半端にはえているBushが雪を支えていて歩きづらい。何とか稜線まで抜けてしまいたかったが、もう時間もいいころなのでここまでとする。ナイフエッジを越えたちょっとしたスペースにツエルトを張る。明日も天気はよさそうだ。朝雪がしまっているうちに一気に稜線まで上がってしまおう。

3/21 晴れ
 C1(5:15)-天狗(8:00)-ロバの耳(小林さんPartyと合流)-奥穂(11:00)-涸沢岳西尾根     conta.2400(14:00)C2

 昨日の晩も、今朝も小林さんと無線がつながらなかった。何もないとは思うが確実に入る場所にいるだけに少し気になる。
 期待に反して雪は全くしまらず、相変わらずの落とし穴である。というよりはもう既に5月の雪のような感じで、グラニュー糖のようなさらさらの結晶になっている。降雪中、直後は雪崩れそうな、急な広い雪面をたどり、再び尾根が形をなして来たころちょうど天狗を下る小林さんPartyを確認できた。昨日お昼ころには間ノ岳の辺りに見えたのにまだこんなところにいる。思っていたより苦労している様子だ。やはり人数が多いと何かと時間が掛かるようだ。

 天狗のうえでハーネスをつけ、メットをかぶって、のんびりする。どうせどこかで追いつけるだろう。トレースをたどり天狗を下る。稜線も雪が安定しておらず、eisenのステップが決まりにくい。最後の下りはだいぶ飛騨側を通過してしまった。コブへの登りはだいぶ雪が飛んでいて岩の上を歩くことのほうが多い。夏と同様のルートをたどる。天気がよすぎてもう1つ緊張感がないが、天気がよくて物足りなさが残るくらいがちょうどいいはずだ。1人のときは無理も効かない。ジャンは上に登り、懸垂で下る。ロバの耳のトラバースはしっかりした鎖が出ているので容易に通過できる。

 ここでseilを出している小林さんたちと合流した。最後のちょっとしたトラバースが悪かったのでseilを借りて懸垂で下る。鎖もあるのでなくても何とかなりそうな感じはした。後は馬の背を越えれば間もなくピークであるが、尾根のラッセルで消耗しているせいかなかなかペースが上がらない。天気もいいしもう確実に小屋までは入れるのでちんたら歩く。懐かしの奥穂のピークである。雪の奥穂に登ったのは1年目の冬の前穂北尾根以来のことだ。
 ピークからは迷い尾根を見送って小屋まで一気に下る。ここの下りもなかなか気は抜けないのだが、小林さんと一緒に快調に下る。山田君はなかなかてこずってるようで、青谷さんと一緒に慎重なステップで下っている。
 
 もうしんどかったので小屋に泊まろうか迷ったが、明日は天気が余りよくないという予想だったので、涸沢岳を見上げてため息をつきながらボチボチと登る。西尾根の降り口で稲ちゃんに黙祷をし、滝谷の写真を何枚か撮って下る。蒲田富士のプラトーは、前に来たときとは違って雪稜にはなっておらず、雪田状になっていた。蒲田富士から一気に高度を落として、樹林帯に入る。もういい加減疲れたのでここらでツエルトを張ることにする。
今回も何とか貫徹できた。ツエルトを張り始めたころ、小林さんらが下って来た。穂高平まで下るということで、ここでお別れである。山田君に樹林帯で落ちないように声をかけてツエルトにもぐりこんだ。
(が、後日、山田君ではなく、芝さんが落ちたと聞いた。最後まで気は抜けないものである。)

3/22 雪 C2(7:00)-新穂高温泉(10:00)

 やはり小林さんの判断は正しい。肩のあたりを何か大きな動物に噛み付かれたような夢を見たと思って朝目を覚ましたら、右肩のうえに雪が覆いかぶさってツエルトが半分倒れていた。樹林帯だからといって適当に立てすぎたようだ。つぶれたツエルトの中で朝飯を作るのもめんどうだったのでスープだけつくって残った行動食をかじって出発する。昨夜はかなり降ったようで、昨日のトレースはきれいさっぱりなくなっていた。気温も高く湿雪とラッセルで濡れ鼠になりながら下る。西尾根末端は広く徒渉点にきれいに出るのはわりと難しいのだが、今回もまんまと外してしまった。仕方がないので一気に沢まで下りて、白出沢を登り返して林道に乗った。
 
 今回使った天狗尾根は、知っていればこの辺りのescapeとして使えるが、視界が無いと上部の雪面が広いので分かりにくいし、また降雪中、直後はなだれの危険があると思われるので、実質的にはあまり利用価値はないだろう。しかし、けがなどで稜線行動がシビアなときなどは最も早く樹林帯まで下れるルートであるので覚えておいてもいいルートだと思う。また穂高の稜線に上がるのに、トレースが廊下のようになった涸沢岳西尾根は歩きたくないという人にはお薦めできるし、天狗をアタックするだけなら新人にも可能な好ルートであると思う。



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