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南紀 立間戸谷            1997.3.9     三瓶 修

3/8 折立-日足
 会社の慰案旅行で十津川温泉まで来たついでに、なかなかくることの出来ない南紀の沢を登ることにした。今シーズン初の沢登りである。玉置山を下った折立から、新宮行きのバスに乗って日足に向かう。日足のバス停はA-コープが一軒あるだけの何もないところで、暖かい日差しとあいまって何とも気持ちがいい。新宮川の段丘に張り付くように何件かの家が建っている。畑にもならない急斜面には代々の墓が立っている。こんなところで生まれて山も含めて何も知らないまま、代々の土地を耕して生きて行けたらこれほどの幸せは無いだろう。現在の日本では所詮無理な話ではあるが。

 新宮川は登山体系では渡し舟に乗って渡ることになっていたが、立派な橋ができていた。橋を渡ると三重県に入る。対岸の集落は和気という。辺りもだいぶ暗くなって来た。明るいうちに出合までつきたかったので少し急ぐ。
立間戸の出合は汚い小さな河原で、何と水が流れていない。新宮川まで降りれば水はいくらもあるのだがもう1つ飲む気にもなれない。今夜の飯はビール1Lで済ますとして明日はどうしたものか。もう辺りもすっかり暗くなったので、とりあえずツエルトにもぐりこむ。風がやたらと暖かい。

3/9 立間戸谷出合(6:00)-小屋跡(9:00)-子ノ泊山(10:15)-立間戸谷出合(12:00)
 水のない小さな川原を進む。行動食だけの朝飯を取り、水の出てくることを期待しつつ歩き始める。水も出て来ないような沢なら腹が減った所で引き返そう。
 河原は間もなく巨岩のごろごろした沢になり、水も音を立てて流れ始める。もっともこの時期の沢なので水量自体は通常よりもだいぶ少なそうな感じである。上流を見上げれば両岸が迫って来ており、出合の貧弱な河原からは想像もつかないような沢相となって来ている。
 間もなく最初の滝が現れる。40mはありそうだ。回りの壁は立っていて容易には巻けそうにない。ここはルート図どおり、右岸に下りて来ているBushを拾って、強引なモンキークライムで上に抜ける。もっと人が入る沢であれば、ここのBushもあっと言う間に崩壊して、ハーケンのお世話にならなければ登れなくなるだろう。

 続いてすぐに10mほどの滝が現れる。水量が少ないので真っすぐ中を通過できそうな気もするが、頭から水を被らなければならないことは必死であったので、ここはあっさり右岸に打たれたボルト・ラダーをたどることとする。最初のボルトのそばにハーケンを1本打ち足し、ビレーを取ってseilを出す。滝の大きさはたいしたことはないが、その側壁は思いの外高く、ボルトはかなり上部まで続いている。結局40mほどseilを出した。滝を越えた後も、右岸側壁はBushが遠くトラバースにもかなり気を使う。

 これを越えると沢は一旦平凡になり、左側から登山道が下りてくる。ここがちょうど二股で、ここから上の核心が始まる。すぐに右から合わさる10mほどのナメ滝を左側のBushづたいにのぼり、続く40mほどの傾斜の緩いナメ滝を左岸側から越える。この滝がおそらく登山大系に載っている写真の滝だろうと思われる。なかなか写真を撮った人はうまい。あんなに明るい滝でもない。滝身も登れるが左側のBushの中を簡単に巻ける。
 続いて沢は屈曲し、30mほどの滝が2つ続く。この滝は巻き口が分かりづらい。左岸側はBushの多い壁になって続いているが、何カ所か抜けそうなところがある。そのうちの1つを木につかまりながら上がって行くと、ルートを示す赤テープにたどり着いた。これをたどって上の30mの滝もまとめて巻いてしまう。ここは途中に下りるには懸垂が必要だと思われる。

 沢筋に戻り小滝を越えると最後の大きな滝が現れる。ここも左岸のBushから非常に痩せた岩稜のうえに上がる。岩稜のうえに上がると眼下には新宮川が光って見える。風が吹き抜けて気持ちがいい。適当な所から沢身に戻るがもう水量もほとんどなくなって沢登りとしてはここでおしまいである。
 河原をたらたら歩いていると昔の造林のための小屋が現れる。ここも大峰の多くの沢と同様に一升瓶を割った破片などが散乱していて荒れている。小屋の横に登山道が下りて来ている。これより上部には1000m続くナメがあるということだがもうほとんど水も流れていないので、そのまま登山道に乗ってしまう。植林のためにつけた道を少し整備しただけと言った感じの道をたどる。水量が少なかったせいか、ピークまではまだまだありそうだ。時間も早いのでたらたら歩く。やがて再び沢に合流する。なるほど沢はナメになっている。が、沢幅はせいぜい3mあるかないかと言った所で、わざわざルート図の中に記すほどのこともない。ピークを往復しそのまま夏道を下り、あっと言う間に日足の集落についた。



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