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中央アルプス前岳沢       1997.08 三瓶 修
   
   Party L 三瓶 SL 平木 M 堀田(彩) 小川
8/29 大阪-(ちくま)-木曾福島
8/30 晴れ
 木曾福島-(タクシー)-アルプス山荘(5:00)-滑川-前岳沢出合(8:00)-夏道 (12:40)-木曽駒ヶ岳 (14:00)-7合目避難小屋(15:00)
 
 林道を詰めて滑川に降りる。7月の末に来たときは夏道を回って大分タイムロスがあったが、今回は様子も分かっているので快調に飛ばす。林道の工事はさらに少しだけ進展したようで、かなり歩きやすくなっていた。どこからつながっているのか分からなかったが、敬人小屋まで車で入ることができればかなり入りやすくなるだろう。
 沢は水量が少なく、迫力がない。これが本来の状態かもしれないがもう1つ面白みにかける。7月の時は徒渉するのもなかなかシビアな所があり、小川君には少ししんどいかなと思っていたがこれならきっと楽勝である。単調な河原をひたすら歩く。彩ちゃんはもう1つ調子が出ない様子。小川君は長い細い脚を活かして快調に後ろをついてくる。もう少し戸惑ってくれるほうが個人的には面白いのだが、などとぜいたくなことを考えながら、あまり離れない程度に歩く。今日も宝剣の岩稜が朝日を背にして黒く鋭い影を見せている。

 奥三の沢で出合の滝をひとしきり眺めた後、今回目指す前岳沢出合へと向かう。15分くらいである。前岳沢はがらがらとした岩屑の中に、わずかな水量で流れ落ちている。
 ハーネスをつけて、気合を入れてスタートする。出合から見えていた巨大なチョックストーンの段差は、左側の側壁から高い位置をへつって落ち口に抜けた。シュリンゲをつないで対処する。続くぬるぬるの滝は出だしが階段状で易しそうに見える。平木さんが no seil で取り付くが途中でぬるぬるで行き詰まって敗退。交代して登るが、抜けた後の緩い傾斜のなめが意外とこわい。カチッとしたスタンスがないのでフェルトの底を岩に張り付けるようにしてフリクションで登る。慣れてないとちょっとこわいのでseilで対処した。

 しばらく河原をたどると核心部の滝が現れる。これはなかなか手ごわそうである。ルートは右側のバンドから滝身のすぐ右に入って抜けるラインだが、ぬるぬるの苔がきらきら光っていていやらしそうである。ちょっとno seilで抜ける自信はなかったので、バイルを外し、ハーケン類を確認して平木さんのビレーで取り付く。途中いいところにハーケンが2本打ってあって、それに支点を取って登った。技術的には、3級から3級プラスくらいの易しいものだが、ぬるぬるのため、なかなか緊張させられる。続いて2つ小滝があるが、問題なく通過できる。これで核心は終了のはずである。予想していたより対処のしやすい沢でこれならもう1人 メンバーがいても何とかなっただろう。sackを降ろし、一息入れる。ここは巻いてしまうなら滝の少し手前の枝沢から大きく巻くことになるのだが、巻いてしまっては何しに来たのか分からなくなってしまうだろう。

 空は抜けるように碧く、岩はやたらと白い。緑の中の白樺が日差しを浴びて輝いている。申し分のない天気である。が、空気は澄み、雲は高く、日差しも心なしか弱々しい。もう今年の沢のぼりもおしまいである。沢の水が冷たい。日なたで濡れた体を温める。白い岩がほどよく日の光に暖められて、その上に抱かれるように体を延ばすと、そのまま眠ってしまいたくなるほど気ちがいい。パノラマ状の滝が、目の前に展開する。水が少ないのが難点だが、なかなか美しい。右側から回りこんで、傾斜の緩いカンテ状のスラブを登る。北岳の4尾根の最後のほうみたいである。落ちたら高いので後続にシュリンゲを出す。もうほとんど水がなくなり、沢のぼりというより、岩登りのアプローチのような感じになって来た。

 涸れ滝を幾つか越えて、左に沢を分けると最後の大きな滝が現れる。平木さんが左側の草つきスラブに取り付くが上部が悪く、行き詰まる。交代して、そのすぐ右側のチムニーから滝上に抜ける。 浮き石だらけで悪いのでseilを出す。これを越えると完全に水はなくなり、乾いた白い川底を歩く。フェルトもすっかり乾き足跡もつかない。三の沢岳が大きく見える。もういい高さまで登っている。上部はがらがらの岩場に向かって沢筋が伸びている。どうやって越えようかと思っているころに、不意に夏道が合流していた。思ったよりあっけない終了である。少し物足りなさは残るが、この程度がちょうどいいところなのだろう。


8/31 晴れ   7合目避難小屋(5:20)-駒の湯(8:00)

 昨日の夕方ぱらぱらと雨が降ったが、今日は引き続いていい天気である。 余り早く下って、温泉も食堂も開いてなかったら寂しいので、山野草の名前を平木博士に聞きながらのんびりと下る。今回覚えた花の名前は以下のとおり。トウヤクリンドウ(これが今回1番気に入った。) セリバシオガマ(南アルプスにたくさんあった。) ツリフネソウ(赤と黄色があったが黄色の方が目だった。これはちょっと品種改良して園芸用の株ができれば、結構いい値で売れそうな気がする。花びらは4枚で、うち一枚が大きく、後ろから巻き込むようにして船の底の部分を形成しているということが、分解した結果判明した。)もっとたくさん名前を聞いたけど、これを書いている現時点で思い出せるのは以上である。ススキが形のいい穂をのばしており、少し密度の薄くなった秋の空気にそよいでいた。

 所感
前岳沢は核心部が集中しており、だれか1人確実なリードをできる人間がいれば、新人でも十分こなせる沢である。滝のスケールが小さいので今回はほとんどseilの中間に入って登攀したので、時間的にかなりスムーズに抜けることができた。もう1人Mが増えると、どうしてもプルージックなり、ユマールなりで対処せざるを得ない場面が増えてくるので、時間的には大分遅くなるだろう。
全体に、ぬるぬるの苔蒸した滝が多く、また予想以上に浮き石が多く、快適な滝登りはあまり望めない。が、白い岩は美しく、気分的にはなかなか楽しい沢である。時間的にも十分一気に抜けられる沢である。



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