Home > 山行報告 > 会報26号 > 1998年度春山合宿 丸山中央山稜



1998年度春山合宿 丸山中央山稜     小林 利樹

 メンバー 高橋伸次郎 小林利樹 今井 渉 堀田 彩
  期間 4月29日〜5月5日

 4月29日から今回の合宿は前半と後半に分かれて高橋君と僕が前半から参加することになりました。陽春の薫る黒部ダムに降り立ち通用門から出口にと歩を進めドアを開けると残雪が眼を射るはずなのに予想通り辺りには雪が全くないではないか。これが春山かと目を疑ってしまう。長く山に行っているが毎年雪が少なくなっているようだ。これも地球温暖化のせいなのかも知れないとつくずく考えてしまう。

 今回目標の丸山中央山稜も雪はなく黒々として迫力に欠けている。末端からいける状態ではなく内蔵助平から行くことに変更する。旧日電歩道をダムの下まで降り一路内蔵助出合目指して夏道を歩いたり沢床を行ったりしながら中年2人組は重たい荷物に喘ぎながらチンタラ、チンタラと行くのでありました。途中で沢通しに行き過ぎ少し戻ってブッシュを漕ぎ夏道に這い上がる。今度は右岸の方から滝が落ちているではないか。ここもよく通っているが今まで気がつかなかった。冷たい水に打たれてここをやり過ごすが僕達を濡らした。暖かい陽射しに少ない残雪が我先にと黒部の流れに誘われているようだ。この水が日本海に注がれ剣岳の頂上から拝む日まで今日の天気が続きますようにと思ってしまう。

 丸山東壁でルンゼを上がりすぎ時間のロスをする。トラバースをしたり沢床に降りたりしながら内蔵助平に着く。橋を渡ったところで水の確保ができるところで「今日はこの辺でこらえといたろか」と2人の意見は簡単に一致する。少しだけ整地をしてテントを張る。このテントは今回新調した「伸ちゃん」のゴアテックスなのである。晴れてほしいと思う反面雨が降り新品を試してみたいと勝手なことばかり話していた。テントの中で「芝君」の差し入れの「さらりとした梅酒」でほろ酔いになる。同じ姿勢からちょっと動くと太股が攣り、伸ちゃんと2人で痛さのために涙が出る。「トレーニングの成果がよくでているな」と2人は納得してしまう。

4月30日
 昨夜は大変暖かく快適な夜を過ごす。
昨日早く行動を打ち切ったので「本日は長い行程になるなあ!」と二人で愚痴をこぼす。内蔵助平から末端の尾根と直接内蔵助乗越へと行くルートがあるが雪も少ないので内蔵助乗越を目指して行くことにする。目の前に見えているがこれが大変長く結構時間がかかってしまう。気温も高く朝からアイゼンもいらない位でラッセルに喘ぎ、重たいザックに苦しめられながら亀のごときノロノロと行くのでありました。

 尾根に取り付いてから今度はブッシュに往くてを阻まれる。這松が敵意をむき出したように二人に挑みかかってくる。新品のテントマットが傷だらけになってしまう。なるべく雪のあるところを選びつつ歩を進める。
 冨士ノ折立頂上の少し手前で左にトラバースをして主稜線に這い上がる。ここから見える別山は遙か遠くに見えている。あそこまで行くのかと思うとうんざりしてしまう。ここの稜線は普段風が強いのと暖冬のせいで雪がまったくありません。休憩をたらふく取りながらやっとの思いで別山に着く。稜線から少し剣御前方面により最初の斜面はきついので10メートル位バックで降りてそこからはグリセードやシリセードでおもいおもいに剣沢 を目指して駆け降りて行く。 本日の長い行程もやっと終わった。

 剣沢についてから「伸ちゃん」が小屋へ行ってコーラとビールを買ってきてくれる。大変ありがたくご馳走になる。感謝、感謝。テントサイトは地肌がでているところで張る。冷たくないので今夜も暖かく眠れそうだ。小屋の前にあるペルー缶にある水をもらう。毎日水を作る手間が省けて大助かりだ。明日は源治郎尾根だなとアルコールを飲みながら話す。今夜も暖かく過ごす。

5月1日
朝の気温も暖かく雪もクラストしていない。一路源治郎尾根目指して剣沢を下っていく。 尾根の取付き付近で大阪の「山下さん」パーティに3人組に会う。このパーティは末端手前のルンゼから取付くらしく登攀の準備をしていた。下から見ると上まで雪面はつながっていないようだ。以前もここから登ったはずだが記憶に残っていない。だんだんと山から受ける感動や感激が少なくなってきているのだろうか?

 僕達は尾根の末端から行くことにする。末端から雪面を登り尾根上にトラバースをしようと思うが雪が切れていておまけにブッシュがひどくトラバースができない。自分ではできると思い取付いたのにできないと解るとなんだか無性に自分に腹が立ってくる。少し戻ってブッシュに捨縄を掛けて懸垂下降をして再び下まで降りる。今度は末端から再び取付きブッシュの薄い所を探しながら行くが難儀する。できるだけ雪面を探しながらつなぎつなぎ行く。登ったり下ったりしながら2峰の登りで山下パーティにまた出会う。新人の人がいるらしくザイルを出しているので待っている間に行動食を食べる。2峰の懸垂下降の所でハーネスを付けザイルを出していると「よろしければこのザイルを使って下さい」と言われたのでザイルをザックにしまい遠慮なく使わせていただく。
本峰迄はあと少しと思いつつ疲れた体に鞭を打ちながら伸ちゃんと亀のように行く。

 天気も少しガスがかかっている他は申し分がない。剣岳の頂上から日本海はガスのため霞んでいた。頂上からは夏道どうしに別山尾根を平蔵のコル迄行きここから平蔵谷を下る。 頂上から剣沢出合までは一時間位で着く。ここからテント迄が非常に長く嫌になってしまうがテント場に着くとほっとする。シュラフを広げてアルコールを飲みながら憩いのひとときを過ごす。この時間、街では味わえない大切なものでありまだ人も少なく広い空間も僕達2人で独占しているようで至福の喜びである。
 明日は真砂沢迄だし「休養できるな」と話す。例によって小屋まで水を取りに行き今夜と明日の分を確保する。

5月2日
 今日は真砂沢迄なのでゆっくりする事ができる。八時頃に出で行く。一時間ぐらいかけてチンタラ、チンタラと行く。真砂沢に着くと早速テントを張るべく整地に取りかかりブロックを切り出し風よけにと積んでいく。天気が大変良くて二時間位でブロックが溶けて虫歯のようになってしまう。僕達の努力はいったいなんだろう。これこそ無駄な努力なのだろうと納得する。いつもはここの小屋も雪で埋まっているけれども今回は屋根が少し出ていた。やはり今年は雪が少ないようだ。テントも張り終えてあとはいつものようにアルコールを飲んで少しの間寝ることにする。早ければ午後2時頃には来るだろうと話をしているがお互いに無線機を持っているのでコールが届けば安心だなと思いつつ一抹の不安もお互い言わないけれどもあったと思う。

 三時過ぎから頻繁にコールするが応答がないのでだんだんと不安になってくる。四時頃に伸ちゃんがもう一度呼んだらと言うのでコールすると「ハーイ彩です」とコールが帰ってきてやきもきしていたが一安心する。「今、ハシゴ谷乗越やゆうとんで」遅いやんか何しとったんやろと話しながら今から迎えにいくわ。と返事をしてサブザックを持って迎えにいく事にする。途中で何回かコールして現在地を聞く。四時半位にコールをしていると無線機からコールがなくて生の声が聞こえてくる。最初は左の方から聞こえたように感じたが「小林さん、ここです。声がする方を見ると右上の方から彩ちゃんの声が聞こえて「アーやっと合流できた」と安心する。僕達の後半の分迄食料やらを持ってきてもらって有り難うの気持ちを込めていくらかの荷物を分ける。テント場に着いて早速酒盛りとなる。明日は多分天気も悪いし停滞だろうと話すがとりあえず三時か四時頃に起きようとリーダーの判断に任す。夜半には雨がかなり降っていた。

5月3日 
 朝起きると雨が本降りなので今日は停滞と決定する。しからばもう一度寝ようかなと思いつつ手は躊躇なくアルコールに延びていた。みんなで飲んで少し寝て起きたら飯にしようといつしか深い眠りについて目が覚めると昼前だった。飯を食べて今日は「平木パーティが入山して来る日だ。今日は停滞なのでアルコールも全部飲んじゃえと残り少ないが飲み干してしまう。これが後から後悔することになる。煙草も含めて二時頃にコールが届き今日は天気が悪く内蔵の助平が増水で渡れないのでここで泊まりますと言っている。すこし上流に行けば橋があるのにと言うがなかなか話が通じなくて困ってしまう。「増水でそれどころじゃなかったらしい」途中からコールが一方通行になり僕達には聞こえているのだけれど僕達の話はかなり感度が悪く聞こえないらしい「明日も渡れなかったら内蔵の助平をつめて真砂岳から雄山に行くと言っている」アーこれで合流もできないなと思う。いやしくもこれで煙草もアルコールも雨と共に流れ去っていく。

5月4日
 テント場を6時前にでる。途中で平木パーティとコールが通じて真砂沢に着いたと聞く。これで煙草もアルコールもいただきだ。と無性に嬉しくなって自然と笑みがこぼれてくる。1,2峰間ルンゼは現治郎尾根から見たとき上まで雪が着いていないので5,6峰ルンゼを登ることにして時間稼ぎをする。6峰の登りで伸ちゃんがAフェースの方に行きすぎいったん降りてくる雪が少なくよけいに登りにくい。他のおじさんパーティと前後しつつ行く。ザイルを出したりして思わぬ位時間がかかってしまう。8峰の頭に昼頃についてコールをして平木パーティは長治郎左俣を登っているようだ。僕達の方が多分早く着くと思ったがまたまた時間がかかり遅くなる。

 本峰手前で岡ちゃんが待っていてくれて煙草をいただく至福の一服、紫煙が剣の空に向かって立ち登っていき最高の気分になる頂上でみんなと会いまたまた煙草を頂く。クラブの人との出会いが嬉しいのか煙草が嬉しいのか複雑な気がする。写真を撮り下山にかかる。途中安全のためにザイルを出し長治郎右俣を降りて行く。テント場に着き雪が溶けた石の上で酒盛りをする。このひととき、クラブの人と山の話をし山の懐に抱かれて過ごし仕事や世間の事から逃れて最高の時間だ。明日は下山だと思うと一週間なんてすぐに過ぎ去っていく。テントの中では歌をがなり立てながらいつしか僕は深い眠りに陥っていた。至福の眠り。

5月5日
 今日は下山日だ。長い剣沢を探し物でもするように下ばかりを向いて前に進まない足にいらだちを覚えながら行く。体力も落ちてきた今これからは若い人といつまで一緒にいけるのだろうかとつくずく考えてしまう。体が動く限り自分の山を続けていきたいしそしてみんなとも一緒に行ってみたい。いろんな事が頭の中を駆けめぐっている。そうこうするうちに世間の匂う室堂に着く。観光客、登山者が溢れている。ここで今井君の運動靴が行方不明になっているのにきずき少し彼はあわてているザックの中を見ているが出てこない。多分、世間のしらがみの中へ帰るのを嫌がって剣の中をこれからあてのない旅に出ているのかも知れない。今度何処かで会ったらまたよろしく。室堂からバスに乗り観光案内を聞きながら美女平迄行く。ケーブルに乗り換え電車に乗り富山まで出る。富山でとんかつを食べて今回の合宿は終わった。夏山合宿に向けてまたみんなで会いましょう。



Home > 山行報告 > 会報26号 > 1998年度春山合宿 丸山中央山稜