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幽霊峠とスクリャービン
          2002.02.03 橘(記)

 その日の夕方、私は一人で篠山に向かっていた。雪を見に行く為である。
しかし暖冬の影響かどこまで行っても雪がない。おりしも道は幽霊峠へと差し掛かっていた。早速車を停めて、御岳へと登る事にする。
 頂上へは5:40頃到着。そろそろ暗くなってきた。このまま頂上の祠の中で寝ようかとも思ったが明日の仕事もあり、来た道を引き返すことにする。 辺りは一面のガス靄の中で、回りは何も見えない。
 ずるずる滑る道を辿り6:10、車まで戻った。なぜか着たときから車が一台止まっており、まだ主は戻っていないようだ。こんな夕暮れの寂しい峠で、車の主はいまだ一体何をしているのだろうと思う。
 まだ帰るには道が込んでいそうなので車でFMラジオを聴いて時間をつぶす。辺りはますます暗く、またガスで真っ白となり、幻想的な雰囲気だ。幽霊峠とはよく名づけられたものでそのままの雰囲気だ。
 ふと、カセットを手にとりデッキへ入れると、スクリャービンのソナタ 第5番が流れて来た。幻想的な調べが、ホロビッツの指運とともに流れる。開け放ったドアから、「白ミサ」がガスに包まれた森へ溶け込む。今にも峠の向こうの霧の中から美しい幻影が現れそうだ。「恐い!」次第に闇に包まれていく森の中で、私は真に美しい姿を見た。私が山そのものに還ったような幻想に包まれた。
  眩むような目まいの中でわずかに残った正気を取り戻し、車のキーをひねった。「ブルツ、ブルッバルブルブッスンブルブル・・・」TD27のがさつなディーゼル音が,山の静寂とスクリャービンの 妖しい調べをかき消す。「帰らなくては」。細い山道を下り、人間世界へと途切れかけたリンクを辿る。相変わらずエンジンの音はうるさいが県道へ合流し、家へと辿り着く。あの、山での幻想は何だったのだろうか・・。 
 


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