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前穂高岳北尾根    2008.5.3−5   橘 滝口 岩瀬

 20年振り、4回目の前穂北尾根。以前は自分が連れて行ってもらう立場だったがいつしか連れて行く立場となってしまっていた。

 5月2日夜10時西宮発。アカンダナ駐車場翌3時着。車で仮眠。

 5月3日。朝7時にアカンダナ駐車場発。8時上高地着。8時半歩行開始。約6時間かけて林道と雪渓を登り、ヘトヘトになりながら涸沢着は午後3時だった。いつもながら涸沢までの道は長く、退屈で、しんどい。

 5月4日。朝3時起床。4時発。5,6のコルを目指して薄明かりの中を歩き出す。中には暗闇の中を出発して、とんでもない方向(7,8のコル方向か?)へ歩いているパーティのヘッドランプの明かりも見える。実際真っ暗だと方向がよくわからなくなるだろう。少しでも順番待ちでよいポジションを得たい各パーティーは休憩も取らず朝一から必死で約2時間かけて5,6のコルにたどり着く。

疲れて朦朧とした状態でハーネスを着け五峰を登りだす。下から眺めるとザイルが欲しいかと思ったが取り付いてみるとトレース通りに歩けば特に問題はなかった。同峰下りも特に問題なく、4,5のコルに下り立つ。しばらく順番待ちの後、四峰を登り出す。明瞭なトレースも着いているので問題なく登るが前のパーティがザイルを出し始めた。トレースもあるしもうちょっと行けそうだと思ったが、追い抜こうとしたら雪が体重を支えきれずにズぼっと崩れるので、無理をせず順番を待つことにする。

 うかうかしていると後ろのパーティに追い抜かされそうになったりするのでGWの北尾根は忙しい。四峰は結構浮石が多く、順番待ちのパーティがひしめいているので落石のないように慎重に上り下りする。3,4のコルにたどり着くとありがたいことに順番待ちは1パーティだけだった。そのうち我々の後ろに続々と溜まりだし、あっという間に20人ほどがコルに集まった。

早く登れという後ろのギャラリーの熱意を背中に感じつつ、先行パーティは岩場を右に巻いたので、こちらは直登のまだ踏まれていない綺麗な凹角を直登することにする。ピンはべた打ちでお助けスリングもぶら下がっているがフリーではどうしてもずり上がれない。ここは躊躇無くA0に切り替えピンにカラビナをかけて掴んでずり上がる。後続の赤いジャージを着たいかにも山屋の方も躊躇せず同じ登り方をしていたので少し安心する。

この辺りでの各パーティの思いは同じで、皆、早く抜けたい頼むから前でへっぽこパーティがふん詰まりにならないでくれという思いだ。結局、三峰の登りは4ピッチで、岩場の状態は四峰よりは安定しているがそれでも手で岩を叩いて登るのは必須で、傾斜はややきつくなる。よく見て見ると難しいルートとそれを巻く簡単なルートが絡み合っている。

 三峰の最後の凹角の登りでまたまた直登を目指すがチョックストーンの岩を手で叩いた感触がちょっと嫌らしい。ふと足元を見ると左にかわしてエスケープルートがあるではないか。一瞬迷うが最後の最後で変な事になるのもいやなので浮石を掴みながらゆっくり左に巻く。三峰と二峰はほぼ同一稜線上で、やせた尾根を慎重に登ると二峰のクライムダウン地点となる。

 この辺りまで来るとスタカットのパーティあり、コンテあり、ノーザイルありと賑やかになってくる。ほぼ実力通りの登り方になっている。我々は残念ながらスタカットで登る。まあ、コンテやノーザイルは実力の揃った者同士でないと難しいだろう。15分ほど順番待ちの後、我々は頂上直下のコルへ懸垂下降する。後続の2パーティは皆フリーでクライムダウン。うーん忸怩(じくじ)たる思いだ。しかし後で話を聞いてみるとすぐ後ろのパーティは穂高の岩場を殆ど登っていて、中には初登のルートもあるという大ベテランの二人だ。ノーヘル、ノーハーネスで、北尾根は歩きに毛の生えた位のものらしい。

 最後に岩稜を詰めればひょっこりと前穂頂上に飛び出た。もうこれで危険地帯を抜けたという安心感と吊尾根から聳える奥穂高までの距離感に疲れがどっと湧き出る。バリエーションを抜けた後は気楽に行きたいものだ。体は自然と奥明神沢へと向かいたがっていた。山頂着12時20分。

 さて、しばらく山頂で記念写真を撮ったり行動食を食べたりした後、重い体を吊尾根に向かって歩き出す。トレースが無ければ多少慎重になるような地形だが今は春山、奥穂高までトレースが確認できる。一旦稜線を下降し、再び登りだす。

 吊尾根は痩せていて、涸沢側へところどころセッピが張り出し緊張が連続する。約3時間かけて南稜の頭に到着。その前に前のパーティの一人が下りでスリップし思わず止まれ!と叫んだが岩場の前で滑落停止できてほっとすることがあった。疲れた体でようやく奥穂高頂上午後15時30分。これで稜線ビバークはせずに済みそうだ。しかし奥穂の頂上から穂高岳山荘までの短い距離が非常に危ない。

 急な雪面の下りと梯子の連続で、おまけにこちらに落ちて下さいというような転落防止ネットがあって思わず吸い込まれそうになる。北尾根を登ってきてこんなところで小屋に救助要請をするのもみっともないので必死で降りる。それにしても長かった。小屋で小休止の後、涸沢に向かってザイテンを一気に降りる。尻セードを交え、涸沢のテントに戻ってきたのは午後17時過ぎだった。

NOTES:

 ・今回アプローチと下降路が長く、足に来た。やはり末端から登り、岳沢へ下山するのが一番綺麗な 登り方だと思う。

 ・涸沢のテント村はすごかった。まるで団地に来たようで、稜線で寝たほうがはるかに静かで快適だ。

 ・北尾根はおっさん好みなのかベテランが多かった。30歳くらいでは舐められることがあるので注意が必要だ。相手側の都合で登り方を指示される事があった。

 ・初めて本番での滑落停止を見たが、もし初心者で尻餅のまま仰向けで流されていたら大事故になっていた。左45度の下りを中途半端に斜め向いて降りていた。怖いと感じたら雪面に正対して一歩ずつ降りたほうが安全だ。その前にルートをよく見て安全なライン取りで降りることも大事。

 ・ハーケンはどこにでも打てる。三峰オープンブックの基部左側にひとつ残置したが、よく見ると右側に4本残置があった。よく見てから打たないと。

 ・今後奥穂高にガイド登山することがあれば、補助ザイルは必須アイテムだ。

 ・涸沢には色々な人がいる。岩場を初登したパーティもいれば、テントの周りに必死でスコップで雪の粉を手で固めながら塀を作っている中年女性など、一度鍋を片手に訪問してみたいものだと思った。
  


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