京都北山 由良川源流 カヅラ谷ーゲロク谷ー小野割岳 沢登り
2010年8月23日 橘(単独)
今年の夏は特に暑い。しかし8月に入ってまだ一度も沢へ行っていない。焦りを感じた私は月曜に休みを取って修行へと出かけた。
芦生の森。何度聞いても良い響きだ。地図をぱらぱらとめくり、ネットで地形図と遡行記録を検索し、情報を手に入れる。しかし便利な時代になったものだ。わざわざ山へ行かなくても全部写真が画面に出る。しかし残念ながら遡行図まで書いて載せているページはない。欲しいのは遡行図で、シャワークライミング中の写真ではない。他人の登っている写真を見ても何の参考にもならないので無視する事にする。
前夜に家を出発し、京大演習林の駐車場に午後9時着。しばらく夜の演習林を徘徊し、不審者に間違えられそうな気がして酒を飲んで寝る事にする。
翌朝5時起床6時発。昨日の葬式のお膳に当たったのか朝から下痢で困る。しかし下痢くらいで怯んでいては山へ登れないので水を飲みながらトロッコ軌道あとを淡々と歩く。1時間ほどでカヅラ谷出合いに到着。ちらちらと川の中に何かいそうなので餌を落とすが釣れるのはアブラハヤばかりだ。そのうちに大物を釣ってやると気合を入れると今度は地球が釣れた。大きすぎて勝負にならない。今日はもうこの辺で釣り大会を一人で開催しようかとも思ったが最初の目的どおり、まじめに沢登りをする事にする。しかし約1時間もロスした。
下山路はエアリアマップの赤線ルートで4~5時間かかりそうなので急いで沢を歩く。そうこうする内に地形図の中間あたりのゲジゲジ地帯に来たらしい。30mくらいの滝が続く。どれもほぼ垂直なので巻き道を探しながら高巻く。巻きも結構怖い。あまり人の入っていない沢なので踏みあとが薄い。注意していないとすぐに変なところへ上がってしまい足場も悪くなる。
連縛帯を抜けると次はノーザイルで快適にシャワークライミングできる適度な滝が続く。しかし何個目かの滝でアドレナリンを出しすぎ、滝を抜けたのにまだ30mほど登ってしまい降りるに降りれない。70mほど高巻いてまた斜め45度で沢に合流する。中間部の連縛帯を超えてしばらくすると空が見えてきた。しかし空が見えてから傾斜が緩やかになり時間がかかる。ひたすらコンパスで南へと上り稜線着11時30分。そこから小野割岳までまた緩やかな稜線を歩いて到着12時。登頂祝いにビールを飲む。ビールが回ったか気分が良くなり、昼寝を決め込む。もうこうなったら下山の事などどうでもよいわい。
13時前、昼寝から目覚めるとさっさと降りる支度をする。予定では小野割岳から東への尾根を3時間、分岐点から北へ1時間のコースだったが、酔いが回ったのか途中からなかなか東へと降りる尾根に乗れない。エアリアマップには載っていない立派な道が南へ降りていてそれを下ってしまう。そのうち東へと道が曲がっている事も良くあることだと立派な道を下っていると突然道が消えた。(トレースを外した)ここは馬力で勝負だとうろうろするがますます混乱してきた。このまま強引に降りて最後はヒッチも考えたがこちら側の地形図がない。地形図なしで未知の山域を日没と競争しながら降りると結果が予想される。ふと振り返るときれいな尾根が東に向いて延々と出ている。あれだ!下山路は。
約1時間のロスだったが肉体的精神的には2時間以上に感じられた。ハイカーの付けたくだらん標識にだまされた私が阿呆でしたと神様に謝りながら登り返し、今度は地形図とコンパス大明神にお伺いを立てながら強引に進むと小さな分岐点の印が出てきた。糞、自分の進みたい方向だけにべたべたと赤白の標識をぶら下げやがってと、自分の注意力の散漫さを標識を付けた他人のせいにしながら東へ進む。
やせ尾根になるとある程度踏みあとが出てくるが地形が緩やかになるととたんに消える。消えてから方向を定めるのが一苦労だ。広いところだと180度以上どの方向にでも降りれる。しかしへんな方へ降りると必ずゲジゲジが待ち構える。時間に余裕があれば沢を懸垂して降りても良いが15時近くともなると悠長な事を言ってられない。昼寝の1時間がもったいなかった。左手の地形図とコンパスを常に見ながら降りる。一瞬でも気を抜くとトレースらしきものから外れだす。
911m付近で北西に伸びる尾根を発見。このまま忠実にこのややこしい一般路を降りるか、一気にショートカットして赤崎東沢出合まで降りるか考える。こういったとき、タバコの一服は値打ちがあるだろう。赤碕東沢出合まで北西に降りる事に決定。さあここからも一苦労で踏みあとが薄い。昼でも薄いから夕方になれば発見不可能だろう。しかも尾根が広くてどこにでも降りられるが下部で絶壁が待ち受けそうだ。赤テープを付けたかったが登り返す予定もないので省略する。ないと困るところにはないがどうでも良いようなところに残っている。
多分、先人も付ける余裕がなかったのだろう。また変な印は付けないほうが次の岳人のためだろう。コンパスに導かれて降りる。今日の運命はスントのリストコンパスのみぞ知る。プロトレックの電子コンパスは実際の山では使い物にならない。そのアバウトな高度計もしかりだ。ただ、GPSはあれば心強いだろう。なんといっても自分の現在地がわかる。一度尾根を間違えればいくらコンパスをあわせても無駄だ。
また、支尾根には皆無だが縦走路にはハイカーが家から作って持ってきたと思われるくだらん道標が多い。ほとんどは自分が登りたいピークハントのみの目的のためひたすら頂上は→などと書いてある。しかもそれを木の枝からぶら下げていたり、木の幹にくくってあったりして、その傍らには道標の向きを変えないで下さいとまで書いてある。思わず90度に道標を変えようかと思ったが止めた。
そんなくだらん道標は他の迷惑だ。ここぞという場所に赤テープを巻いて油性ペンで書いておけば済む話だ。誰かが向きを変え、それを鵜呑みにした(自分もかもしれない)登山者が迷う。簡単に向きを変えられるような道標は端から付けないで欲しい。逆に六甲山にはくだらない不要な赤テープが多過ぎる。登山者はもう少し考えて残すべきだ。
今回は山の神様より次々と滝を登る試練を与えられ、下山路では次々に待ち受ける枝沢、枝尾根の試練を与えられ無事修行を達成する事ができた。
最後に由良川起点の神社で、故寺川君と故稲沢君の御霊に礼を捧げて下山。駐車場着17時30分。全体的に爽やかな沢で、ヒルの被害はなかった。