錫杖岳 前衛壁 左方カンテ アルパインクライミング
2010年09月19日~20日 崎間 犬吉 橘(記)
長年温め続けてきた錫杖岳の登攀がついに15年の歳月を経て実現されることとなった(んな大袈裟な・・)
20年以上前のトポを見て、各ルートの研究に勤しむが、どうやら最近ルート整備が行われてナッツやカムが要るようになったらしいとの情報を得て、各1セットと各自回収用ナッツキー持参とする。
前夜西宮を午後10時発、新穂高の露天風呂へは翌2時頃到着。寝ぼけ眼で駐車場を探し、テントで仮眠する。6時起床、7時、錫杖岳を目指してクリヤ谷登山道を歩き出す。寝ぼけながら歩いていると1時間ほどで突如前衛壁が出現。早速壁に圧倒される。すごい所を天はお創り給うたと感動する。感動はいいが威圧されて温泉めぐりに変更しようかという弱気な発言も出てきた。まあ、50歳も過ぎれば壁よりも温泉が普通か。
ちらちらと見え隠れする前衛壁に威圧されながら道を歩き、錫杖沢を左へ分岐するとテント村出現。さっそく手ごろな空き地に領地を確保する。テント内で腹ごしらえすると今度は満腹感で沈したくなってきた。そのたびに残りの2名は大丈夫かいなこのオッサンはという目で疑惑の視線を浴びせかける。あまりのんびりしていると謀反を起こされそうなので腹をくくり、さあ、出発だあ!と空元気で気合をかける。(10時)なんとなく3ルンゼより左方カンテという雰囲気がしたので左方カンテに取り付く。(結果的にはそれでよかった)
1p目。ルンゼ上を浮石に注意しながら40m伸ばす。支点発見でピッチを切る。
2p目。やや広いルンゼを登ると上のほうからルート開拓者が降りてきて漬物石を落としてくる。危ない危ない。我々が通過するまで懸垂を待ってもらう。
3p目。ピナクルからボルト連打を右上する。ここは迷わずA1にする。ここの2本のボルトがルート整備者から撤去されずに済んでよかった。自分が登れるからと撤去されてしまうと一体この錫杖岳前衛壁は誰の物かと文句も出よう。
4p目。広い凹角状。ここもチムニー登りで行けるがなんせ途中の支点が全くない。替わりに目の前に必ずクラックがあるのでここへカムをセットして登れということだなと理解して脳みそフル回転でクラックと手持ちのカムを符合させて突っ込みながら登る。しかしぐらぐら動いているカムを足下に3つも見ながら登ると気味が悪い。これがクリーンクライミングというものかとロビンス先生の著作の内容を必死で思い出しながらずり上がる。
5p目。チムニー、クラックから左のフェースを直上。やや難しいが岩は硬く、適度にガバもあるので強引に登れる。
6p目。よく判らないうちに通過。概して「日本の岩場(下)」の図とはどうもずれているようだ。
7p目。オフィズスからクラック、左のリッジへ。このあたりで先行パーティに追いつき、順番を待つ事にする。先行も難儀していたが出だしのオフィズスが難しい。木が左にあるので足を乗せようかとも思ったが自然保護を考慮してルート整備者の残してくれた有難い残置ハーケンで素直にA1で登る。ここを抜かれたら大変だ。一体この岩場は誰のものなんだという苦情が出そうだ。オフィズスを超え、広いチムニーをバックアンドフットで登るが背中のザックに抱えたポリタンがベコ!ベコ!と不気味な音を立てて破裂しかける。チムニーを直上は勇気がいるなあと逡巡していると有難いことにハーケンが左のリッジへ導いてくれる。残してくれてありがとう。
最後は逆層の小フェースが現れ、逆層はいやだなあと左右を伺うがルートではないようなのでそのまま直上する。濡れていたら緊張するだろう。ここで先行パーティが懸垂下降するので順番を待つ事にする。この上フェースがもう1ピッチあるが支点も少なくナチュプロも使えそうにないので我々もここで登攀終了とする。(15時)
初めてのルートを登り、初めてのルートを懸垂で降りるのは非常にドキドキさせられた。頭を使わず重力のままに降りていたらどこへ50mで降りるか分からない。幸い先行パーティがいたが本来は自分たちで考え、解決していかなければならない問題だ。
50m一杯を3回の懸垂でやっとこさ地上に降り立つ。空から地上に舞い降りたような気分だ。有り余るような残置支点ではないので余計に緊張する。暗くなり始めた北沢を慎重に降り、30分程で幕場に着く。(17時30分)
晩飯はすき焼きとビール、デザートにフルーチェ(失敗)。翌日は3ルンゼを登る予定の夢を見ながら早々にリーダーが正気を失って眠りこけたが、明け方3時、さあそろそろといった時刻から雨が降り出し次第に本降りとなったのであえなく中止とし、次の目標の温泉へと進路を変更する。
notes:
入門者向きの人気ルートといったイメージだったがプロテクションが撤去され、神経の研ぎ澄まされた中身の濃い登攀ルートと感じた。ただ、ルート整備については様々な意見もあるのではないかとも思いました。ナッツ、カム類が多めにないと危険で登れません。懸垂下降失敗時にはボルト2本打つ必要があるかと思いますがそれはそれでまた自然破壊だと言われそうです。本来の岩場を残しつつ尚人間がそこに登るからにはプロテクションを打たなければならない。沢山の以前あったはずのボルトの穴をあちこちに見ながら複雑な気持ちがしました。しかし圧倒的に快適なアプローチは再登の意欲も持たせてくれる貴重な山であると感じました。