八ヶ岳 石尊稜 厳冬期アルパインクライミング

2011年2月26日~27日    崎間 宇都 橘(記)

一度登ろうとして取り付きを間違い、敗退した石尊稜に再度チャレンジする事にする。

2月25日(金)

崎間君の車で残りの二人をピックアップしてもらい、美濃戸へ向かう。途中、飯田市あたりで重大事故による通行止めに遭遇し、迂回に2時間ほど余分にかかる。朝4時前に美濃戸口から10分ほどの林道脇に車を停め、仮眠する。

2月26日(土)

未明から赤岳鉱泉で開かれる氷フェスティバルに向かう車の通る音で起こされる。本日の予定は行者小屋までなのでのんびりと準備し、林道を出発する。40分ほどで美濃戸山荘へ到着。そこから南沢を約2時間で行者小屋に着く。早速テントを張り、腹ごしらえをしてから石尊稜の取り付きを偵察に行く。今ではネットが発達したので画面で見覚えのある景色が出現し取り付きも大体判った。帰りは三叉峰ルンゼを回り、赤岳鉱泉で開かれているアイスキャンデーフェスティバルの様子を見学してから、落ち着いた雰囲気の行者小屋へと戻る。

晩飯はうどんスープ鍋とゴッチン飯。久しぶりにゴッチン飯に遭遇したがやはりまずかった。明日のハードスケジュールを考え、夜は7時過ぎに就寝。

2月27日(日)

春の夢も見ることなく、朝4時に起床。棒ラーメンを掻きこみ、慌しく準備をして5時過ぎに出発。石尊稜下部岩壁あたりに7時頃到着。ネットの記録などではかなり嫌らしいとの事だったが、取り付いてみるとそれほどでもなく、ほとんど不動岩の東壁といった感じで2ピッチを終える。その後もコンテにするには少し怖そうだったので、そのまま崎間トップでスタカットで登る。5P目あたりで後続3人パーティに追いつかれる。

やけに早いなと感心しているとガイドと客二人のパーティだった。そのガイド氏は海外遠征も豊富なかなりのエキスパートらしく、私もガイドに付いて、ガイドの仕方を教えて欲しいと思った。基本は1=2で、危険箇所のみ、ガイドが素早くビレイしている。スタカットとは全然早さが違う。

私も緩やかな所で真似をしてみたがやはり使える技術だと感じた。ただ、客一人が落ちたとき、瞬時に二人分のビレイをする必要があるだけに中途半端に真似できるような技術ではない。

さて、ガイドPに抜かされた後、次第に天気は悪くなり、高度を上げるごとに視界は悪く、寒くなってきた。最後まで崎間君にトップの練習をして経験を積んでもらう積もりだったが、天候も悪いので私がトップを交代しがんがん登る。上部岩壁に来ると風のためホイッスルでしか連絡が取れなくなった。私は途中まで上下フリースだったので目茶風通しがよく、下半身に力を入れたときにお小水をちびってしまった。やはり冬の八つにフリースは無謀だった。(ザックの中にはシンサレート入り上下があったが・・) ガスの中、やや高度感のある岩峰を登りやっと稜線の人工物に辿りつく。

12時30分。そこからは一般縦走路を地蔵尾根分岐まで歩くだけだが、雪で鎖や梯子が隠されているので結構難しい。視界があっても難しいのだから、初日に無理して登って稜線で日没となった場合、よほど慣れていないとトレースを外してえらい目に遭うだろう。事実、ある岩峰でリングワンデリングをやってしまった。何度かルート確認に手間取ってから、やっとお地蔵さんに出会う。ここで今回の登頂成功を祝してメンバー全員で握手をする。

地蔵尾根の出だしも結構急なので慎重に降りるがまたもやルートを外れる。外れたところでひょっこり赤岳主稜から下山中の二人Pと合流し、2Pで地図を出しながら降りる。雪から顔を出した梯子を発見し、やっと安全な道を発見する。冬の八つの稜線は短いが甘く見てはいけないなと自覚する。文三郎尾根で滑落があったらしくヘリが昼過ぎから飛び続けている。行者小屋到着15時。甘酒でカロリー補給し、テントを畳んで美濃戸へと下山する。林道駐車場着18時。予定通り帰りはきついが、帰神は0時前後となった。

Notes:

  • 石尊稜はさすがに有名なルートで格調が高かった。赤岳主稜と同程度の難度だが趣が異なった。(こちらの方がやせ尾根)
  • 新人君二人には事細かく注意を与えたが終いにはうるさがられた。
    • 例:安全環付カラビナでセルフビレイをとるのはよいが、オープンゲートからとっては意味がない。
    • 例:タイオフの向きが判っていない。下向きのハイ松にその向きでとってすっぽ抜けないのか。
    • 例:上部の稜線直下では滑落は許されない。氷を登るか、ハイ松を登るか、経験・技術にもよるがハイ松帯を選ぶのが一般常識。そこはアイスゲレンデではない。
    • 例:ロープの残mを体で覚えていない。(短めに切った方が安全だが)
  • 私の反省
    • 右手の手袋の先がザックの中を弄るうちに破れて軽度の凍傷
    • 下から注意したことがあったが気がつけば自分も同じことをしていた。
    • 稜線まで出ればなんとかなるという見込みがあったが甘かった。余裕がなくなると稜線ビバークの可能性も出てくるだろう。
    • コンテではループでザイルを巻いたが、一般道に出て肩から外したときにスパゲティになってしまった。
  • 今後に登る方へ
    • 岩角が多いのでダブルのシュリンゲが多めに必要。
    • 下部岩峰への取付き雪稜は日当たり良く、状況により雪崩れそうな感じ。
    • 事前練習には不動岩東壁が最適
    • 左手袋の甲に貼るカイロを貼ったが効果があり、温かった。

最後に、楽しく登れたメンバーに、感謝。