前穂高岳 吊尾根 北面ルンゼ スキー滑降

山行日
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山域、ルート
前穂高岳 吊尾根 北面ルンゼ
活動内容
山スキー
メンバー
三浦x2

前穂高岳 吊尾根 北面ルンゼ スキー滑降 山行記録

吊尾根とは、高度を保ったまま二つの山頂を吊り橋状の大きな弧を描いてつなぐ尾根である。代表的な吊尾根は穂高連峰の吊尾根であり、その他にも鹿島槍ヶ岳双耳峰の吊尾根がある。いずれの吊尾根もその山の風格と特徴を形造る重要な要素である。

穂高連峰の吊尾根は前穂高岳と奥穂高岳をつなぐ尾根である。縦走路があり、重太郎新道とザイテングラードをつなげば、岳沢から前穂高岳と奥穂高岳を経由し涸沢に至る登山ルートとして重要である。吊尾根はまた、涸沢側、岳沢側のいずれも断崖絶壁になっており、季節を問わず穂高連峰の峻厳な景観を形成する重要な要素の一つである。吊尾根の峻厳な姿が、涸沢カールと河童橋の景観を素晴らしいものにしていると言っても過言ではない。

吊尾根北面ルンゼは、涸沢カールから吊尾根の最低コルに向けてダイレクトに突き上げるルンゼである。積雪期でも岩壁が露出し、峻烈でありながらも美しい姿を見せる吊尾根において唯一雪に覆われるルンゼである。また、上高地 - 岳沢 - 奥明神沢 - ダイレクトルンゼ - 前穂高岳 - 吊尾根 - 北面ルンゼ - 涸沢と繋ぐことができ、上高地や岳沢から涸沢に抜ける最短の山スキールートとしても重要である。

今回はその吊尾根北面ルンゼをスキー滑降した。2011年に涸沢を訪れた時、吊尾根の雪庇の切れ目から雪のつながった北面ルンゼを見つけ、それ以来狙っていたラインである。残雪期に3回、無雪期に1回下見し、今回ついに達成できた。ルートは上述のように、上高地から岳沢と奥明神沢、ダイレクトルンゼを前穂高岳目指して登行し、吊尾根北面ルンゼを滑降するルートである。

初日の行程は、仕事の都合上早朝から行動できなかったため、上高地から岳沢小屋までとした。上高地までバスでアクセスし、ターミナルでスキー板とブーツをザックに固定し、アプローチジュースで歩きはじめた。高度が上がると岳沢が雪で埋まってくるため、シール登行に切り替え、昼過ぎに岳沢小屋に到着しこの日は小屋でのんびり過ごした。

上高地から岳沢小屋へ向けて。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
上高地から岳沢小屋へ向けて。

吊尾根北面ルンゼ滑降を狙う2日目は、奥明神沢とダイレクトルンゼを前穂高岳に向けて登行し、吊尾根にアクセスした。奥明神沢は、岳沢小屋を起点として前穂高岳と明神岳のコルに突き上げるルンゼである。岳沢から前穂高岳へのルートは、無雪期であれば重太郎新道を通るが、積雪期には奥明神沢を登行するのが一般的である。ダイレクトルンゼは、2700m付近で奥明神沢から前穂高岳側に分岐し前穂高岳にダイレクトに突き上げるルンゼである。

奥明神沢とダイレクトルンゼは、傾斜はあるものの特に難易度は高くない。アイゼンで雪渓を登って行くだけである。ただしダイレクトルンゼに分岐した直後のノドで雪が割れて岩が露出している場合があり、雪が極端に少ない場合は登行できない可能性もある。

岳沢小屋から奥明神沢を登行。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
岳沢小屋から奥明神沢を登行。

この日は前穂高岳のピークは巻いてドロップポイントまでクライムダウンした。雪壁とガレ場が入り混じって時間がかかった。

前穂高岳のピークは巻いてドロップポイントまでクライムダウン。雪壁とガレ場が入り混じって時間がかかった。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
前穂高岳のピークは巻いてドロップポイントまでクライムダウン。雪壁とガレ場が入り混じって時間がかかった。

前穂高岳吊尾根北面ルンゼのドロップポイントは、最低コルよりも前穂側の位置である。滑降する北面ルンゼの東側尾根の頂点には雪庇になっており、その奥穂側の雪庇の切れ目がドロップポイントである。広くはないが滑走準備をするには充分だった。

吊尾根北面ルンゼのドロップポイント。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
前穂高岳吊尾根北面ルンゼのドロップポイント。

ドロップポイントからは吊尾根北面ルンゼの滑降ラインが全て見通せた。遠くに涸沢のテン場が見える。

ドロップポイントから見た吊尾根北面ルンゼ。上部はかなりスティープ。ラインは上から全て見通せた。遠くに涸沢のテン場が見える。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
ドロップポイントから見た吊尾根北面ルンゼ。上部はかなりスティープ。ラインは上から全て見通せた。遠くに涸沢のテン場が見える。

景色を堪能し、滑走準備を整えていよいよドロップ。直下は山側の手が斜面に触る急斜面だったため、細かくターンを刻んで高度を下げていった。直下の急斜面を抜けても岩やクラックがあったりして気の抜けない斜面が続いた。

吊尾根北面ルンゼにドロップ。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
吊尾根北面ルンゼにドロップ。

核心部を抜けると涸沢カールの広大な大斜面である。振り返ると滑降した北面ルンゼのラインが見えた。リグループしてから涸沢ヒュッテに向けて大斜面をかっ飛ばした。

下から見上げる吊尾根北面ルンゼ。中央に見える雪庇のスキーヤーズ左からドロップした。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
下から見上げる吊尾根北面ルンゼ。中央に見える雪庇のスキーヤーズ左からドロップした。
吊尾根北面ルンゼ核心部終了。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
吊尾根北面ルンゼ核心部終了。
核心部を抜けて大斜面をかっ飛ばす。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
核心部を抜けて大斜面をかっ飛ばす。
涸沢ヒュッテで祝杯。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
涸沢ヒュッテで祝杯。
前穂高岳吊尾根北面ルンゼの滑降ライン。2013年5月撮影。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
前穂高岳吊尾根北面ルンゼの滑降ライン。2013年5月撮影。
前穂高岳吊尾根北面ルンゼ滑降時のGPSログ。前穂高岳 吊尾根北面ルンゼ スキー滑降
前穂高岳吊尾根北面ルンゼ滑降時のGPSログ。

登行ルートは昨年の前穂高沢スキー滑降の記録を参照。