白峰三山 登山
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- 幸内さん、岡島家(父母娘)
白峰三山 登山 山行記録
11月は晩秋と初冬の間のはっきりしない季節で服装や装備に迷う。10月を過ぎれば三千メートルの稜線は氷化しているかもしれず、念のためアイゼン・ピッケルを含む冬山の装備を揃える。しかし身体は未だ夏山の沢登りモード、心は秋のもみじ狩り気分なので冬山ほどの緊張感は全く無い。
11/3(文化の日)晴天
広河原8:30- 北岳肩の小屋13:30
幸内さんと一緒に登るのは福井県の大野から白山三ノ峰に登って以来でした。今回の計画に幸内さんが乗ってくれたのは、以前に11月末の農鳥岳に悪天候で登れなかったリベンジのため、ということでした。
広河原のビジターセンターで娘と合流し、大樺沢沿いにバットレスを見上げながら歩き出す。所々の水流を渡る丸木橋が凍っていて、滑って沢に転落しそうになる。氷が薄くて凍っている様に見えないのだ。頂上稜線に出る手前でアイゼンをつける。肩の小屋まであと少しの距離だからと、オーバーズボンもスパッツも履かずになめていたら、稜線は強風が吹きつける真剣に冬山の世界。わずかの間に手の指と下半身が完全に冷え切ってしまった。冬期小屋にほうほうの態で逃げ込む。
久々の三千メートルの高さは靴を脱いだり履いたりする作業さえ、一挙手一投足が息苦しい。
11/4(金)快晴
肩の小屋 6:30発- 北岳 7:30 - 間ノ岳 11:00 - 農鳥小屋13:30/14:30-西農鳥岳15:30-農鳥小屋16:30
気持ちを冬山に切り替え完全装備で出発。真冬の寒気でないのが幸い、風に吹かれながら考えること。私達は何処まで登ればよいのだろうか。その答えは風の中にある。それは北岳の頂上。強い風が薄い空気をさらっていく。息が足りない。
乾燥した強風を逃れて北岳山荘の風陰で陽光を浴びて身体を温めていると、暗褐色の県警ヘリが北岳山頂に接近してきて八本歯のコル付近を旋回している。下山後に報道で知ることになるが、2日に滑落した遭難者を収容するところであったらしい。
昨日の肩の小屋でも、トレッキングシューズと軽アイゼンの軽装備の人や、単独の登山者も多かった。トレランシューズで上がって来た単独の兄ちゃんには正直おどろいた。むしろ私達の様な12本爪アイゼンとピッケル姿の登山者の方が珍しかった。しっかりした装備と基本的な体力、そして信頼できる仲間がいれば簡単には遭難しない。
間ノ岳を越え農鳥小屋の冬期小屋に荷物を置いて農鳥岳に向かう。リベンジの幸内さんにトップを歩いてもらう。前回は視界が無く、頂上手前の肩に上がる岩場でルートが見つからず引き返したそうだ。今回は岩場の下の雪面をトラバースして肩に上がる。3051m西農鳥岳を今日三つ目の三千メートル峰とする。本当は農鳥岳本峰まで貫徹したかったが、本峰は西峰より標高が低いということで、此処で満足とする。
11/5(土)快晴
農鳥小屋5:40発-間ノ岳8:00-三峰岳9:30-両俣小屋12:30-野呂川出合14:50-北沢峠16:30
普通の計画ならば農鳥岳から奈良田温泉に下山するのだが、奈良田・広河原から北沢峠行きのバスが11月4日で運行を終えているため、もう一度間ノ岳に登り返し、野呂川越、両俣小屋経由で北沢峠に帰らなければならない。もし北沢峠16:00の最終バスに間に合えば、仙流荘で泊まってゆっくり温泉に浸って熱燗でも飲みたい。
岩屑の間ノ岳の斜面を風によろめきながら登る。視界が無ければ歩けない広さ、風を避ける場所も無い。それでも風に吹かれながら一歩一歩を噛みしめる様に歩むのは何故だろう。その答えは風の中にある。それは幾つもの山を越えてきたことだ。 今日は一段と風が強い。間ノ岳の南面は殆ど雪が飛ばされており、歩く毎に足元から砂塵が舞う。風の弱い処まで早く降りようと、間ノ岳頂上をそそくさと立ち去る。三峰岳へ向かう西尾根はトレースも無く、真っ白な雪面にこの冬初めの足跡を付けて進むのが単純に愉しい。途中バックステップで降りる氷雪面があり、思いっきり蹴りを三四回入れてステップを刻む。少し緊張した。この時期でも雪が積もれば氷化する。
三峰岳を越えると樺の疎林となりホッとする。仙丈ヶ岳へ続く南アルプスらしい森の道、仙塩尾根。ワンゲル娘が午後四時半の広河原発甲府行の最終バスに乗らなければならないという自分勝手な都合により野呂川越で別れる。残された年寄り三人は少し休んで両俣小屋への急な道を降りる。「本日の行動はここまで。」とテント場を張ってもよい疲れ具合であったが、仙流荘で温泉に入って布団で寝たいという楽観主義が勝って、あと12キロの林道を歩き倒すことにする。
とうとう最終バスには間に合わなかったが、長衛小屋のキャンプ場で沢の音を聞きながら晩秋の山の夜を過ごすことができた。白籏史朗の著書「山に憑かれて」の"山に入る日-北沢峠に登る"の章を読み返すと、「ここは北アルプスの涸沢とまではいかないが、南アルプスでは屈指のキャンプ・サイト。流れは清く、のぞく青空は狭くとも、東には駒ヶ岳摩利支天、西に小千丈岳をのぞむ北沢露営地である。」とある、その通りの河原のキャンプ場に沢山の1人用テントに混ざって6人用テントを張るのでした。
テントの中で靴を脱いだ幸内さんの足の親指には血が滲んでいました。豆が潰れても一言も痛いと言わず、「もっと山へ行かんとあかんなあ。」と言いながら、少しだけ残ったシングルモルトをチビチビと味わっていました。
幸内さんから教わったことは、休憩の時に、胸をはって腰を伸ばす「これだけ体操」です。今度は山スキーで「ブン廻し」か「振子沢」に行きましょう。ありがとうございました。